味の幸華
静岡県東部の焼きそば特集も今週でラスト! 最終週は伊豆半島の中華料理店、3軒をご紹介します。
スープに浸った焼きそばってのは意外と多い。有名処だと塩原のスープ入り焼きそばや黒石のつゆ焼きそば。他にも宮津カレー焼きそばのウェットタイプや小見川のつゆだくカレー焼きそば、函館のつゆだく焼きそばなどなど……。あ、船橋のソースラーメンも元々は焼きそば(ダイヤキ)だったっけ。
そして伊豆を代表する温泉街・熱海にも、「汁入焼そば」を提供する店を見つけた。「味の幸華(こうか)」という中華料理店で、創業は昭和6年(1931年)。今年で86年目という、かなりの老舗である。これが他で見かけたことのないスタイルなのだ。
熱海の幸華を訪れたのは9月上旬の平日のこと。店舗は糸川という川に面して建っている。熱海は急な坂の多い町で、糸川もJR東海道本線の来宮駅のあたりからまっすぐ下り、海に流れ込んでいる川だ。なお、この辺りは古い温泉街に付き物の旧赤線地帯で、今もところどころにその名残を留めている。
店は奥に長い造りで、左手が厨房。それに面してカウンターが5席。奥の階段から2階へも上がれる。11時半くらいの入店で自分が口開けだった。カウンターで餃子を包んでいた女性が「いらっしゃいませ」と告げてお冷を出してくれる。
例の品は「伊府湯麺(汁入焼そば) 1150円」というメニュー名で提供されている。「ほう、伊府麺か……」と一人合点しつつ、それを注文。名物のジャンボ焼売も食べてみたかったが、食べ歩きなので今回は我慢。しばらくすると厨房から何やら油で揚げる音が聞こえてきた。10分弱で配膳。
麺は揚げ麺で、いわゆるカタ焼きそばだ。これまで当ブログで何度か紹介したが広東では伊府麺という揚げ麺がある。本来の伊府麺は水を使わず玉子だけで練った平打ちの卵麺だ。揚げたものをお湯で戻して使うため、インスタントラーメンのルーツとも呼ばれている。ただし幸華は卵ではなく、水とかん水を使った麺のようだ。太さも異なるし、単に「揚げ麺」という意味合いで「伊府(湯)麺」と名付けたのかも知れない。
そのパリパリの極細麺の上には銀餡が掛かっている。餡の具は豚肉、キャベツ、モヤシ、人参、キクラゲ。さらにカニのほぐし身、賽の目に切った赤チャーシュー、エビ、イカ、錦糸玉子、グリンピースなどがトッピングされていた。伊豆らしい海鮮たっぷりの豪華な具材だ。
そこまでは老舗の広東料理店で提供される、正当派のカタ焼きそばそのもの。しかし見ての通り、麺の下部がスープにヒタヒタと浸っているのが、一般的なカタ焼きそばとは大きく異なる。まさに「汁入焼そば」である。
上に掛かった餡は、具の風味を活かすべく控えめな味わいだ。それとは対照的に、スープは割と濃いめの味付け。醤油と魚介系の出汁が効いていて、後を引く美味しさである。皿の端に添えられたカラシや、卓上に置いてある酢を使った味変もよし。
意表を突かれたスタイルだが、予想以上に美味しくてスープもほぼ飲み干してしまった。その場で揚げたパリパリ麺は、汁に浸りながらも最後まで硬さは割りと保たれていた。
歴史ある町ならではの隠れた逸品。いつかこの辺りに宿を取って、夜にのんびり訪れてみたい。その時はジャンボ焼売も必ず食べようっと。
店舗情報 | TEL: 0557-81-3901 住所: 静岡県熱海市渚町12-11 営業時間: 11:30~21:30 定休日: 火曜 → ホームページ |
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主なメニュー | 伊府湯麺(汁入焼そば) 1150円 |
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