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四海楼

2018年12月9日

※長崎皿うどんに興味のある方は、長文コラム『長崎皿うどんの歴史的考察』もぜひご一読ください。


皿うどんと言えば長崎の四海楼抜きには語れまい。ちゃんぽんと皿うどんの発祥の店、明治32年創業の老舗である。「元祖の皿うどんはどんな味だろう?」と訪れてみたのは、昨年の四月中旬のことだった。

長崎市 大浦天主堂下 四海楼

日曜日の11:20に到着して、まず建物の大きさに圧倒された。なんだこのビルは。中華料理店にしてはデカすぎる。大階段の左右には千里眼と順通耳の像まである。開店は11時半のはずで、多少待つつもりで来たのだが他の客が次々と店内に入って行く。自分も5階の展望レストランにエレベーターであがってみると既に半分ほどの席が埋まっていた。どうやら正規の開店時間前に客入れが始まっていたようだ。

海を臨む広大な展望と、豪華な造り。フロアには高級感が十二分に漂っている。ウェイトレスも大陸風のユニフォームできびきび動いてる。こういう店にはあまり慣れてないのでちょっと落ち着かない。薄汚れたバイクウェアという点も何となく引け目を感じる。

窓際のテーブルに案内され、すぐにメニューを渡されたが元から注文は皿うどんと決めて来た。ページを繰って目的の品名を見つけ、「この『皿うどん』を一つ」と指し示してオーダー。

「はい、皿うどんおひとつ。ご注文は以上でよろしいでしょうか?」
「はい」

ウェイトレスが復唱して去ったあと、出された温かいウーロン茶を啜って、ようやく少し落ち着いた。改めて店内を観察すると、周りはちゃんぽんの注文客が多いようだ。テーブルの上にはソースと酢と胡椒、それとお土産の案内パンフレットが置かれていた。

「ちゃんぽんと元祖皿うどんをお土産に、か」

暇つぶしにそのパンフレットを手に取って読んでみて驚いた。この店発祥として有名な細麺のかた焼きそばの「皿うどん」は、メニューでは「皿うどん」ではなく「炒麺」で掲載されているというのだ。以下、店にあったパンフレットの「皿うどん」の項より引用する。

「皿うどん」は、四海楼初代 陳平順がちゃんぽんのバリエーションとして創ったもので、ちゃんぽん麺を強火で焼きちゃんぽん同様の具を炒め、少なめのスープを加え残らず麺にしみこませた料理です。うどん状のものを皿にのせて出したことから皿うどんと名付けられました。一方「炒麺」は、極細の油揚げ麺に五目あんかけをかけた皿うどんから派生して出来たもので、細麺の皿うどんと呼ばれてます。

つまり自分の注文した「皿うどん」は思い描いてきた品と違うのである。己の不勉強と粗忽さを呪いつつ、慌ててウェイトレスさんに交換可能か確認するも時既に遅し。厨房に訊いてみてくれたが既に造り始めているので不可とのこと。

こうなってしまっては仕方が無い。ちゃんぽん→皿うどん→長崎皿うどん、という時系列なので、ルーツであることに変わりは無い。これも何かの縁と思って、くよくよせずに目の前の料理を食べようではないか。

認知的不協和を解消するため、そんな風に人知れず悶々としているところに注文した皿うどんが運ばれてきた。

皿うどん 997円

やや扁平したちゃんぽん麺はシコシコした食感。麺だけ別に炒めてあるらしく、ところどころ焼き目も付いている。具はキャベツ、モヤシ、豚肉にイカ、エビなどの魚介類に紅白はんぺん。豚骨と鶏がらを使った濃厚なスープがそれらの麺と具を包んでいる。

太麺の皿うどんはちゃんぽんが元

実際に食べた感想だが、これが無茶苦茶美味い! スープのコクと旨味が太麺に十二分に染みていて、一口食べてその濃厚な味わいに衝撃を受けた。ちゃんぽんの味わいを「ぎゅっ」と濃縮し、麺に閉じ込めたような料理である。細麺の皿うどんとは確かに全く別ものなのだが、正直、太麺の皿うどんを注文して良かったと感じるほどに美味しい。

さらに店員さんに薦められたように卓上のソースを掛けると、これが一気にソース焼きそばチックになる。それもまた美味かった。ちなみに細麺の皿うどんも、東京などでは酢と辛子で食べることが多いが、本場長崎ではソースを掛けるのが一般的らしい。

目的の品は食べられなかったが、皿うどん発祥の店で細麺と太麺の違いを知ることができた。細麺の皿うどんは次回訪問時の楽しみとして、今回はこれで結果オーライとしておこう。

【2018.12.9 追記】
7年越しの念願が適って細麺の皿うどん「炒麺(1080円)」をいただくことができた。パリパリの揚げ麺は香ばしく、餡は濃厚。贅沢な具と旨味に満ちた一皿だ。

炒麺 1080円

渡されたウスターソースはスパイシーで辛味が強め。全体の風味を増してくれた。餡の粘度が高めで麺は最後までパリパリだった。細麺もマジうまい。太麺と甲乙つけがたい味わいだなあ。

揚げたてのパリパリ細麺

長崎滞在中に再訪してチャンポン(1080円)もいただいた。こちらも美味い。スープは乳化してて、想像よりずっと濃厚な味わいだ。

チャンポン 1080円

麺も独特な風味とシコシコした腰の唐灰汁麺。元祖と言われているだけあって、間違いない美味しさのチャンポンだ。これがすべての始まりだったんだなあ。

長崎ならではの唐灰汁麺がうまい

店舗情報TEL:095-822-1296
住所:長崎県長崎市松が枝町4-5
営業時間:11:30~15:00、17:00~21:00
定休日:不定休
ホームページ
主なメニューちゃんぽん 997円
炒麺 997円 (細麺の皿うどん)
皿うどん 997円 (太麺)