陸羽茶室

香港の中環(Central)にある陸羽茶室は、香港を代表する老舗の飲茶レストランだ。創業は1933年というから今年で90年になる。前回の記事の冒頭で、飲茶を提供する店について「伝統的な茶室もあれば、流行に乗っている店もある」と書いたが、陸羽茶室はもちろん前者に当たる。

香港 中環 陸羽茶室

陸羽茶室を訪れたのは香港に到着して3日目。平日の午前11時前に訪問した。現在の店舗は1976年移転時からで、それ以前は別の場所で営業していたらしい。

陸羽茶室 2階への階段

インド人のドアマンに2人と告げると2階へと促され、入り口のすぐ左にある階段を上る。幅が狭く角度が急なので、しっかり手摺を握ろう。突き当りの仕切りには、屋号「陸羽茶室」を透かし彫りした飾り枠がはめられていた。

『茶経』を表した陸羽の木造

二階へ登った右手には、唐代に『茶経』を表した陸羽の木造が飾られていた。この店の屋号の由来となった人物だ。観光客に媚びないと評判の店員さんたちに促され、丸テーブルに着席。

陸羽茶室 店内の様子

混雑すると聞いていたが、さすがに早めの時間帯だったので空いていた。壁際のテーブルの幾つかは常連らしき方々の名札が置かれ、予約済みになっていた。

ジャスミン茶(香片茶) 42HKD/人

着席と同時に「何のお茶にしますか?」と訊かれたので、ジャスミン茶(香片茶)をお願いした。お茶は1人につき42HKD。最初の一杯で湯呑みを洗うのが正式な作法とか聞いていたので、見様見真似でやってみた。あっているのかどうかもよくわからんので、やらなくても良い気がするが、歴史ある食文化への敬意ということで。香りが良い。

陸羽茶室のオーダーシート

さて、この店の飲茶は専用のオーダーシートで欲しい点心を指定する。かつては湯気の立つ蒸籠を持って各テーブルを周り、食べたいものをピックアップする方式だったそうな。複数の点心を提示して客が選ぶ提供方法は、飲茶の伝統的なスタイルだ。

長谷川伸や獅子文六の著作によると、明治時代の横浜でもそれに似た方式が採用されていたらしい。着席と同時にお茶と複数の点心が出され、好みの品を食べたい分だけ食べたそうな。私も体験してみたかったが、新型コロナの影響などもあってこの店では廃止されたようだ。残念。

点心4品を注文してみた

飲茶のメニューは週替りなため、どれがどんな点心かを予習しても、来訪した日に提供されるかはわからない。この日も出たとこ勝負で、脯魚蝦焼売(干し魚と蝦の焼売)、西施牛肉角(牛肉の蒸し餃子)、蠔油叉焼包(オイスターソース叉焼まん)、層酥雞蛋撻(パイ生地エッグタルト)をお願いした。いずれも価格は63HKD。

脯魚蝦焼売(干し魚と蝦の焼売) 63HKD

脯魚蝦焼売はこの店の定番の点心だ。魚の臭いが強めで、かなり癖がある。牛肉餃子も食べ慣れないハーブが使われているようで、日本で出会ったことのない香りだ。連れはどちらもちょっと苦手な味らしい。

西施牛肉角(牛肉の蒸し餃子) 63HKD

こちらは西施牛肉角。「なぜ絶世の美女・西施の名を冠するのか?」と帰国後に調べてみたら、骨付き牛カルビを荒縄で巻いて煮た「稻草西施牛」という広東料理があるらしい。その料理も「西施」の名の由来はわからないが、西施牛肉角はその牛肉料理を使った餃子なのかな? だとしたらあの未体験の香りも納得できるのだが……

追加の点心、3品

まだ物足りない感じだったので、今度は癖のなさそうな点心を追加してみた。揚州煎蝦餅(えびの練り物/63HKD)、牛柳絲春巻(牛ヒレ肉の春巻き/63HKD)、火鴨荷葉飯(鴨肉入り蓮の葉包み御飯/110HKD)。期待通り、どれも日本人に馴染みがある味だ。

火鴨荷葉飯 110HKD

火鴨荷葉飯は餅米が使われている巨大ちまきのような料理だ。ずっしり重く食べごたえがあり、味が滲みていて美味しかった。

この日注文した品々が572HKD。それにサービス料が10%追加されて、お会計は合計629.2HKD。約12,000円の超豪華な昼食となってしまったが、何度も来れるお店ではないので、ケチケチせずに食べたいものを注文できてよかった。

ところで陸羽茶室は飲茶だけの店ではなく、広東料理店でもある。グランドメニューには炒麵=焼きそば系料理も何品か載っており、それを食べるのも今回の香港遠征の大きな目的だった。

陸羽茶室 夜は雰囲気が変わる

陸羽茶室で飲茶を堪能した翌日。お昼の便で、連れは一足先に日本へ帰国した。私は一人で香港へ残り、その後3日ほど集中して焼きそばを食べ歩いた。まずは陸羽茶室の再訪だ。夕方5時半には看板に灯りが点り、前回とは雰囲気も違っている。

プーアル茶(普洱茶) 42HKD/人

入り口で1人と告げると1階のボックスシートに案内された。やはり最初に飲み物を訊かれ、今回はプーアル茶(普洱茶/42HKD)を指定。美味しい。ホッとする味わいだ。

陸羽茶室 麺品類メニュー

午後の遅い時間になると飲茶は提供されなくなり、渡されるメニューも別物になる。麺品類のページを眺めると、いろいろな「辦麵」「窩麵」など日本ではほぼ見かけなくなった麺料理も多い。それらに混じって「炒麵」「炒米」が載っていた。今回注文したのは、生雞絲炒麵(鶏肉焼きそば/200HKD)だ。

陸羽茶室 1階の様子

他に日本人客や中国人客も何組か来たが、やはり飲茶目当てが多いようでがっかりしている。この時間帯に点心はないことを知って帰る組までいた。他では見かけない料理も多いのにもったいない。せっかくだから食べていけば良いのに……

生雞絲炒麵(鶏肉焼きそば) 200HKD

焼きそばはオーダーから10分ほどで提供された。細く平たい柔らかな麺で、カリッと表面が焼かれている。伊府麺にも似ているしなやかさで、例えが悪いかも知れないがチキンラーメンの麺を思わせる質感だ。

細く平たい柔らか麺を使用

餡は鶏の出汁が効いていて、軽く醤油で味付けされ、ほどよいとろみがついていた。具は鶏肉がメイン。これまたとても柔らかい。あとは干し椎茸、青菜。青菜は菜心だろうか、一切れが大きく茎の部分はかなり太い。万人受けしそうな、あっさりした味わいのあんかけ焼きそばで、めっちゃウメーン!

鶏肉も柔らか

ボリュームは、これ一皿でちょうどよいくらい。出発前に同店の写真つきメニューに添えられた「約四人份」の文字を見て「一人で食べ切れるだろうか?」と心配していたが、結果的には、他の料理を頼まなければ一人でちょうどよいくらいのポーションだった。

242HKDにサービス料で266.2HKD。日本円で5,000円ちょい。お茶と焼きそばだけで結構なお値段になったが、金額では計れない体験ができたので満足だ。なんなら何度か通って、いろんな麺類を制覇したいくらいである。友達の餃子マニア、焼売マニアとも一緒に行ってみたいなあ……

店舗情報住所: 中環士丹利街24號地下至3樓
営業時間: 7:00~22:00
定休日: 無休
ホームページ
主なメニュー生雞絲炒麵 200HKD
点心 63HKD~
茶 42HKD