だるま堂
小倉焼うどん発祥の店、だるま堂へ訪れるのはこれで3度目だ。狭く入り組んだ横丁の食堂街にあるため、行くたびに迷ってしまう。
四月中旬、平日の15時半に入店。先客と入れ違いで客は自分だけ。店主のおばあちゃんは相変わらず曲がった腰でテキパキと動いている。カウンターに腰かけ、お冷やを受け取って天まど510円を注文。
この店の焼うどんは乾麺を使っているのが特徴だ。今回注文した天まどはそれに玉子がトッピングされたもので、玉子を窓から見る月に見立てて名付けられたメニューである。
肉の脂身を鉄板に敷いてキャベツ、玉ねぎを小手でチャッチャ、チャッチャと炒める。そこに固めに茹でた麺を投入し粉鰹、ソースで味付け。その横で水で溶いた小麦粉を薄く焼き、焼きうどんを乗せて玉子を落とす。ひっくり返して良い感じで玉子に火が通ったところで盛り付けて出来上がり。
麺はシコシコして歯応えがある。ソースの味付けはあっさりしてるが魚粉の風味が深みを増している。物資不足の時代に作られたメニューなのでとてもシンプルなのだが、しみじみと美味い。
店内には各種メディアの切り抜き記事や訪れた芸能人の色紙が沢山飾られている。
「お陰であちこちで紹介されて……今日も原稿の確認をお願いされてねぇ、『戦後まもなく』じゃなくて『終戦直後』に直してもらって」
なるほど。この店の開業は昭和20年、間違いなく『終戦直後』だ。開店した当時、焼きそばを作りたかったのだが物資が不足していたため已む無く乾麺のうどんを使ったという話は有名だ。それが名物となり、現在に至るまで小倉では焼うどん―――『焼「き」うどん』ではない―――に乾麺を使うようになった。
「昔は玉子が高級品だったけど、今は安くなったねぇ」
値段設定も昔に比べて高くはしたが、それでも10年以上据え置きだそうだ。何でも500円玉が出た当時に、1コインで焼きうどん460円が買えることを意識して価格を設定したらしい。
跡継ぎが居ないのかも尋ねてみたが、笑って「もう60年もやってるから、これで良い」とのこと。以前はお好み焼きや野菜炒めなども作っていたらしいが、独りでもできるだけ長くお店をやっていられるよう、ある時期からメニューを限定したそうだ。
お店のカウンターには「小倉焼うどん研究所」の作成した食べ歩きマップがあった。終戦直後の代用食が、今や全国区の名物メニューになっている。このマップに掲載されているお店の一つ一つが、おばあちゃんの味の跡継ぎなのかも知れない。
店舗情報 | だるま堂 TEL:093-531-6401 住所:福岡県北九州市小倉北区魚町1-4-17 鳥町食道街 営業時間:12:00~18:00 定休日:木曜日 |
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主なメニュー | 焼うどん 460円 天まど 510円 ごはん 100円 ビール 450円 お酒 330円 |
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