みずはら
久しぶりの焼きそば探訪記です。前回のムンバイキッチンから3ヶ月も経ってしまいましたね。長いことサボってしまいすみませんでした。まだ多忙な日々は続いているので、今後もマイペースで続けます。
神戸市長田区に「みずはら」というお好み焼き店がある。創業はなんと昭和8年。現存するお好み焼き店では、日本最古の店だ。店舗はJR新長田駅を海側に下る道路、「タンク筋」沿いにある。
訪問したのは11月上旬、文化の日を絡めた三連休の真ん中の日曜日。午後1時のちょいと手前という時間帯。外からは、中の様子が見えない造りだ。混んでいるかなーっと、恐る恐る引き戸を開けてみる。
「いらっしゃいませ」
鉄板を囲むコの字カウンターで、7席のみというこじんまりした店内。幸い他の客はおらず、奥の角に同行者と2人で腰掛けた。
メニューはもちろんお好み焼きが中心だ。長田を含む兵庫県の一部ではお好み焼きを「にくてん」と呼んでいたが、今は具に応じて「豚焼」「すじ焼」などの名前になっている。焼きそば・焼うどんも「そば焼」「うどん焼」という呼び名だ。
注文したのは貝すじ焼(1000円)と、チャンポンうどん焼(いか・えび・たこ、1000円)。「貝焼き」は長田のお好み焼きの定番だ。使われている貝の和名はウチムラサキ。神戸では「大貝」と呼ぶ。
小麦粉を溶いた生地を、熱した鉄板に落とし、お玉の背を使って薄く丸く広げる。その上に千切りキャベツを乗せ、削り粉を振り掛ける。「貝すじ焼」なので、前述の大貝と煮込んだ牛すじを乗せる。天カスを散らし、生地を垂らす。
裏返して、ギュっと押さえ、うどん焼の脇でじっくり焼く。頃合いを見てもう一度裏返し、ウスターソースをさっと塗って、できあがり。
貝の旨味とさっぱりしたソースが実に美味い。生地は軽い味わいで、いくらでも食べられそうな気にさせる。長田まで来てよかった。
貝すじ焼の横で、チャンポンうどん焼も同時進行だ。肉、いか、えび、たこ。うどん玉を熱した鉄板に置く。
肉や魚介は丸カバーで覆って、蒸し焼きに。うどん玉は軽く解し炒めて、キャベツの千切り、魚粉、天かすを加える。
ソースを足して混ぜ炒め。肉や魚介も火が通った頃合いを見て合流させる。
鉄板に広げて、適度に水分を飛ばす。ほどよいところでできあがりだ。
長田のお好み焼き屋では、お好み焼きだけでなくうどん焼やそば焼も小手で食べる。自分もその流儀に倣ってみた。
魚介の贅沢な味わいともちもちのうどん、あっさりソース。海に面した町であることを、ヒシヒシ感じる美味しさだ。今回、あえて「そば焼」でなく「うどん焼」にしたが、正解だった。
まだお腹に入りそうなので、追加ですじそばめし(900円)とアップル(150円)をいただいた。
アップルは長田区で長年愛飲されている清涼飲料水だ。色は黄色でリンゴ味でもない。戦前から戦後に掛けて全国で飲まれた「ミカン水」の一種だ。謎の多い飲み物だが、素朴な甘さが良い。
すじそばめしは、すじ肉、あらかじめ刻んだ麺、ご飯がまず鉄板に置かれた。
その上にキャベツ、魚粉、天かすを乗せる。
ソースを掛け、両手の小手でカチャカチャと刻みながら念入りに混ぜ炒める。
これも小手でいただいた。パラパラと解れる食感が楽しい。どろソースも適量入れて、味変を楽しんだ。
「みずはら」はもともと、タンク筋を挟んで1ブロック南の二葉町五丁目の辺りで創業した。戦前は「二葉新地」という花柳街で、「にくてん街」と呼ばれるほどお好み焼き店が密集していたらしい。
食後にご主人から昔のお話を聞くことができた。戦前か戦後かは定かでないが、もともと中華麺の代用として、うどん玉や日本蕎麦を使っていたという話。みずはらのメニューに「油かす」がない理由。詳しくは、執筆中の焼きそばの歴史本(電子書籍)で紹介したいと思う。
後から入って来た地元のご婦人は、お好み焼きを一枚平らげたあと、途中まで食べたそば焼を持ち帰りにしていた。この気安さが長田のお好み焼屋さんの魅力なんだろうなあ。
店舗情報 | 住所: 兵庫県神戸市長田区久保町4-5-4 営業時間: 11:30~23:00 定休日: 火曜日 |
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主なメニュー | チャンポンうどん焼 1000円 貝すじ焼 1000円 すじそばめし焼 900円 アップル 150円 |
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