お知らせ


あいざわ

富士市の焼きそばと言えば、思わぬところで思わぬ出会いがあった。今年2月のカラッと晴れた日曜日。バイクで伊豆の山中にある世界遺産、韮山反射炉を訪れたあとのことだ。

世界遺産 韮山反射炉

昼食を食べに向かったのは、伊豆長岡の住宅街にある「あいざわ」というお好み焼き屋だ。韮山・伊豆長岡から修善寺に掛けての狩野川流域は、ネットで調べても焼きそばの情報がほとんどない。この店も口コミはゼロ。でもお好み焼き屋だから焼きそばは提供しているはずと思って訪ねてみた。

伊豆長岡 お好み焼 あいざわ

このエリアにもお好み焼き屋は幾つかあるが、その中でもここ「あいざわ」を選んだのには理由がある。Googleのストリートマップで外観を確認したところ、暖簾の文字が「焼そば」だったのだ。お好み焼き屋なのにわざわざ焼きそばを暖簾に掲げるということは、何かしら特徴があるに違いない。

事前情報が全くないので、定休日も営業時間も分からないまま訪問。午前11時過ぎに通りがかった時には閉まっていた。「日曜は休みなのかなー」と30分くらい時間を潰して再訪したら今度はちゃんと営業していた。ほっとしつつ件の暖簾を潜る。

伊豆長岡 あいざわ 店内の様子

店内はこじんまりしていて、上品な感じの女将さんが一人で切り盛りしていた。客席は鉄板テーブル、4人掛けテーブル、2人掛けテーブルがそれぞれ1卓ずつの合計3卓。開店直後で先客なし。ついメニューの写真を撮り忘れてしまったが、お好み焼きと焼きそば、餃子が売り物だった。注文したのはミックス焼きそばの大、680円。

女将さんが調理しながら、キャベツの焼き加減や玉子の硬さ、ふりかけを掛けていいか、などを訊いてくる。「お好み屋なんだから、お客さんの好みを聞いた方がよい」と息子さんに言われたそうだ。なるほど、確かにお好みで焼くからお好み焼きなんだよな。

ミックス焼きそば(大) 680円

でてきた焼きそばは期待以上の盛り具合。蒸し麺と豚肉、イカ、キャベツを炒めて、脇には紅生姜を添え、目玉焼きと青海苔、だし粉がトッピングされている。静岡ではお馴染みのスタイルだ。

創業以来、富士宮の麺を愛用

麺を引っ張り出してみると、なんとなく見覚えがある。「あれ? これって富士宮の……?」と女将さんに確認してみると、ドンピシャだった。なんとマルモ食品の焼きそば麺を使っているそうだ。店内のマルモ食品の幟にもそこで気付いた。ここからさらに話が意外な展開に進んでゆく。

マルモ食品の幟もある

こちら「あいざわ」の女将さんは、富士市吉原の「さくらい焼きそば店」の実の妹さんとのこと。昭和32年創業のさくらい焼きそば店は富士宮系では最も古い焼きそば専門店だ。昭和61年にこちらのお店「あいざわ」を始める際、その「さくらい焼きそば店」を営むお姉さんから焼き方など教わったという。

それ以来、麺は富士宮のマルモ食品からわざわざ取り寄せているそうだ。B1グランプリで優勝してから、伊豆でも富士宮やきそばを売る店は現れたが、創業から32年間も使っているのは恐らくこちらだけだろう。

お姐さんから譲り受けた暖簾だったとは……

また、当ブログで2015年に「さくらい焼きそば店」を紹介した際、一年半ほど休業していたと書いた。その休業の際に暖簾を譲り受け、屋号の表記だけを差し替えて使っているとのこと。なるほど、それで焼きそばの暖簾だったのか! 数奇な出会いに、焼きそば好きとして一方的に感動してしまった。

富士市吉原の「さくらい焼きそば店」は、残念ながら復帰からしばらくして店を締めたそうだ。無くなってしまったのは寂しいが、その味がこうして伊豆長岡で受け継がれていると知って嬉しくなる。こういうのが地道に食べ歩く醍醐味なんだよなあ。

常連さんの血圧を考えて味付けはやや薄め

油はゴマ油を使っていて、まろやかなソース味。味付けをやや薄めにしているのは、年配になった常連さんの血圧を考えてのことらしい。ソースとマヨネーズを渡されたので、ソースを少し後がけしてみた。爽やかな酸味が、目玉焼きやだし粉に合う。歴史の重みを感じる、味わい深い焼きそばだ。

「昔とおんなじ味だって言われます」と女将さんが笑いながら仰った。良いものは変わらなくて良いと思う。富士と中伊豆を繋ぐ姉妹の焼きそば。今後も末永く同じ味でいて欲しい。

あいざわ

店舗情報TEL: 055-947-0842
住所: 静岡県伊豆の国市古奈211-2
営業時間: 11:30くらい~(未確認)
主なメニューミックス焼きそば(大) 680円

お好み焼き、焼きそば、餃子など