紅蘭亭 下通本店
先週・先々週にお届けした熊本特集の続きです。先月の熊本食べ歩きで食べたのは、もちろんソース焼きそばやちょぼ焼だけではありません。今週はその中から焼きそば系の品々をご紹介します。
熊本を代表する老舗中華料理店・紅蘭亭(こうらんてい)。1934年(昭和9年)の創業で、熊本名物「太平燕(タイピーエン)」が人気の店だ。太平燕の発祥には諸説あるが、ここ紅蘭亭もそのひとつとして知られている。どんな料理かはこちらを参照。
紅蘭亭の太平燕を私が初めて食べたのは2005年。もう11年も前になるのか。使われている春雨が想像以上に軽やかな喉越しで、普通のラーメンやちゃんぽんよりも軽々と胃袋に収まったのを覚えている。
紅蘭亭の下通本店を再訪したのは6月中旬、平日の19時過ぎのこと。幅員の広いアーケードに面して、見覚えのあるビルが建っていた。フロアは5階まであるが4月の地震に被災して2階から上は閉鎖中。本店で唯一営業している1階フロアは当然のように混雑していた。順番待ちのリストの最後に名前を書き、待つこと7分ほどで席へと案内された。
着席して渡されたメニューを眺める。太平燕(780円)は今回パス。狙っているのは皿うどん(830円)だ。
熊本で「皿うどん」と言えば、柔らかい焼そばの事をいいます。
と断言している。一方、揚げ麺の方は焼きそば(780円)という名前で記載され、次のような説明文が書かれていた。
パリパリの揚げた細麺にあんかけの「パリパリ焼きそば」の事です。
九州各地の老舗中華店で「皿うどん=太い柔らか麺」「焼きそば=揚げ麺あんかけ」というパターンを見てきたが、ここも同様だった。実に興味深い。というわけでその皿うどんと生ビール、そして太平燕に次ぐここの名物・酢排骨(スーパイコー・1030円)を注文した。
「ビールはジョッキの方でよろしいですか?」
「はい」
「皿うどんは柔らかい麺ですがよろしいですか?」
「はい」
「ビールはすぐにお持ちしてよろしいですか?」
「はい」
「かしこまりました、少々お待ちください」
「はい」
「はい」しか答えないドラクエの勇者気分を味わったあと、すぐに生ビールが運ばれて来た。つまみが塩ピーナッツではなくカシューナッツなのがちょっと嬉しい。
続いて皿うどん登場。麺は中太のちゃんぽん麺。多少の焼き目が付いている。具は豚肉、エビ、カマボコ、さつま揚げ、キャベツ、モヤシ、人参、キクラゲ。カラフルで視覚でも楽しませてくれる。
油脂をまとったシコシコのちゃんぽん麺には濃厚な旨味がたっぷり滲みていた。ちゃんぽんに使われる豚骨と鶏がらで取ったスープで炒め煮したのだろう、あとを引く美味しさで箸が止まらない。麺と具が一体となりスルスルと喉の奥へと収まっていく。もう少しだけ食べたいな、というほどほどのボリューム感も実によい。
酢排骨(スーパイコー)はいわゆる酢豚だ。豚肉の衣はカリカリな状態で、かなりしっかり揚げてある。その衣に甘酸っぱい餡が十二分に滲みている。癖になる濃厚な味わいだ。ヤングコーンやパプリカのシャキシャキした食感と爽やかな風味が良い息抜きになっている。さすが老舗の人気メニュー、完成度の高い逸品だった。
肥後ならではの中華を堪能して、お会計は2380円。熊本市を代表する飲食店のひとつで、上層フロアには格調高い宴会場もある。営業しながらで大変だとは思うが、閉鎖しているフロアの早期復旧を願ってやまない。それと余談になるが、これまで食べた皿うどん=柔らかい太麺の老舗を箇条書きにしてみた。
- 長崎 四海楼 – 明治32年創業
- 福岡 福新楼 – 明治37年創業
- 佐賀 春駒食堂 – 大正11年創業
- 北九州 中山楼 – 昭和7年創業
- 熊本 紅蘭亭 – 昭和9年創業
- 有楽町(東京) 桃園 – 昭和25年創業
- 鹿児島 山形屋ファミリーレストラン – 昭和32年創業
これらを食べ歩いての個人的な見解だが、パリパリ細麺の皿うどんは元来「焼きそば」と呼ぶのが一般的で、それを「皿うどん」と呼ぶようになったのはだいぶ時代を下ってから、恐らく戦後しばらく経ってのことなのではとにらんでいる。いずれ長崎もじっくり回らねば……
店舗情報 | 住所: 熊本県熊本市中央区安政町5-26 営業時間: 11:30~21:30 定休日:無休 → ホームページ |
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主なメニュー | 皿うどん 830円 ちゃんぽん 780円 焼きそば 780円 太平燕(タイピーエン) 780円 酢排骨(スーパイコー) 1030円 |
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