みその亭
気に入った店が無くなるというのは寂しいものだ。
名古屋・伏見駅の近くにある居酒屋・みその亭を訪問したのは今年の2月のことだった。昭和25年に宮大工が建てた旅館を改装した老舗で、旅館時代は中日の寮として使われていた。さらに巨人や阪神、広島が遠征に来た際の宿舎としても利用され、王貞治が素振りしたという部屋も残っている。私は特にプロ野球ファンという訳ではないが、ここに「あの名古屋名物」をアレンジしたメニューがあると知って訪れてみた。
土曜日の午後8時前、ビジネス街の伏見は人通りもまばらだ。お店は外観からして趣がある。ちなみに隣は「世界の山ちゃん」で、ここも同じ旅館の建物らしい。
店内に入ると「いらっしゃいませ」と艶やかな和服の女将さんが迎えてくれた。テーブル9卓と小上がりが5席ほど視界に入るが、奥や二階にいくつも小部屋席があるらしい。フロアは空いていたが団体客がそれらの小部屋に居るらしく、スタッフもなかなか忙しそうだ。
テーブルに腰掛けると、男性スタッフがお絞り・先付けを持ってきた。それと同時に「ウエルカムビールです」とビアタンブラーを差し出す。嬉しいサービスだ。さらに「今日は早くお出しできる料理はこれくらいなのですが」と数種類の小鉢をお盆に載せて見せてくれた。ホウレン草の胡麻和えを選んで、注文した生レモンハイをグビグビやる。
割と長時間飲む間に女将さんから色々と面白いお話を伺えた。各球団ファンのお客さんの思惑が絡んでいるため、色々と気を使うこともあるらしい。V9時代の巨人の写真なども見せていただいた。その後時代を経て三代目が15年前に改装し居酒屋として開業したとのこと。
焼酎のウーロン茶割りや大アサリなどをいただいて、最後の締めに目的の品、「焼きしめん(500円)」を注文。「珍しい品ですね」と言うと「きしめん、焼いちゃいました」と女将さん。可愛い。
麺はもちろん薄く幅広のきしめん。熱々の鉄板に盛られて香ばしい焦げ目がそこかしこについている。具は豚肉、キャベツ、人参、玉ねぎ。トッピングに大量の鰹節が踊っている。味付けは塩コショウと醤油だが割りと薄め。きしめん独特の食感に鰹節の旨味、カリカリの焦げ目。想像以上に美味しい。鉄板はコンパクトだが嵩が高くて意外にボリュームもあった。
食べ終えると「お茶をお持ちしましょうか」と最後まで細やかな心配り。お会計は3300円。実に気持ちよく飲める店だった。
さて、このみその亭だが残念ながら今年の6月末で閉店してしまったそうだ。記事掲載について少し迷ったが、こうして記録に留めておくのも全くの無意味ではないだろう。名古屋で呑む時に再訪しようと思っていたのだが、もうあの味を味わえないとは本当に寂しい限りである。
店舗情報 | ※2012年6月末に閉店しました。 TEL:052-212-4477 住所:愛知県名古屋市中区栄2-1-22 営業時間:11:30~14:00、17:00~22:30 定休日:日曜、祝日 |
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主なメニュー | 焼きしめん 500円 |
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