中國菜 老四川 飄香 麻布十番本店

年頭から続いていた新型コロナの緊急事態宣言が、3月21日にようやく解除された。勤務先の会社も、在宅ワーク推奨から週2回出社推奨に戻った。今年に入ってほぼ毎日、ランチは自炊か弁当か宅配だ。都心でのランチは良い気分転換だったのだと、いまさらながらに痛感している。

中國菜 老四川 飄香 麻布十番本店

久しぶりに顔を合わせた同僚たちと総勢3名で向かったのは、麻布十番にある四川料理店、瓢香(ピャオシャン)本店だ。オーナーシェフの井桁良樹シェフは、日本を代表する四川料理の達人だ。看板に「老四川」を掲げ、伝統的な四川料理にとことんこだわっている。

中國菜 老四川 飄香 入口

公式サイトによれば、井桁氏にとって「飄香は自己表現の場」だそうだ。お店への思い入れの深さが伝わってくる。

私にとって飄香は生計を立てる手段ではありません。アルバイトで食べた回鍋肉。斎藤文夫さんや知味斎で教わった本格的な中華料理。成都で味わった本場の四川料理。それらに出会ったときに私を震わせた感動や驚きを日本の皆さんにお伝えしたい。その想いを形にしたのが飄香です。私にとって飄香は自己表現の場なのです。

そのこだわりの四川料理が、ランチだと1500円から味わえる。会社から近いこともあり、これまで何度か利用してきた。来るたびに未知の食体験が待っており、それが楽しみなのだ。

重慶式 豌卆面(豌雑麺)

例えば初回訪問時には「豌卆面(豌雑麺)」(ワンザーミェン)というのをいただいた。重慶名物のえんどう豆入和え麺で、ほどよい麻辣にえんどう豆の食感・風味が重なって、後を引く美味しさだった。四川の麺というと担々麺が有名だが、そちらは成都名物。同じ省内でも成都と重慶で好みが異なる辺りに、四川料理の奥深さを感じる。

さて、久々の瓢香でランチメニューを開くと、麺料理のページに焼きそばが載っていた。料理名は「酸菜蛤仁炒麺」。日本語表記は「アサリと芥し菜ピクルスのあんかけ焼きそば」だ。

飄香 ランチ麺メニュー

瓢香のランチメニューで焼きそばを見たのは、実はこれが初めて。四川料理に麺料理は数多くあるが、炒麺は調理法として一般的ではなく和え麺や汁麺が主だ。つまり本格的な四川料理店で、炒麺は割と珍しい存在なのだ。

「ご注文はお決まりですか?」
「はい、この焼きそばでお願いします」
「あ、ついに焼きそばなんですね!」

注文をとってくださったのは、接客を担当されているサービスマネージャーの熊谷泰代さん。彼女も、このお店で欠かせない存在だ。実は初訪問の際に「食べあるキングの塩崎さんですよね?」と訊かれて、なぜ自分を知っているのかと驚いた覚えがある。そのアンテナの張り巡らせ方にプロ意識を感じた。熊谷さんは瓢香の顏として井桁シェフの信頼も厚く、メディアに取材されたこともある。私の知り合いにも彼女のファンは多い。

「食べあるキングの焼きそば担当の方が……」

熊谷さんが私の注文を通したのだろう、厨房からそんな声が聞こえて妙に気恥しくなる。やがて凍頂烏龍茶と前菜一式、漬物とお豆腐が配膳された。

前菜4品、四川ピクルス、四川豆花

前菜は4品あり、詳細はメモし忘れたが、スタッフが丁寧に説明してくださった。定食を注文した場合、このタイミングでご飯も出される。ちょうどご飯が欲しくなる味なので、実に嬉しい。

スープは優しい味わい

そうそうスープも付いてくる。滋味に富んだ優しい味わいだ。できればこの前菜でビールを飲みたいくらいだが、午後も仕事が待ってるからなあ。

アサリと芥し菜ピクルスのあんかけ焼きそば 1500円

そしてお待ちかねの焼きそばだ。パリパリに焼かれた中太麺に、たっぷりの具を炒めた餡が掛かっている。具はアサリとチャーシュー、キノコとネギ、キャベツの類か。芥し菜ピクルス=酸菜は微塵切りの状態で使われている。

アサリの旨味と漬物の辛さの相乗効果

一口目でアサリの旨味におおっ……と唸る。さらにあとから、芥し菜ピクルスの辛さがじんわり効いてくる。日本で言えば高菜漬けに似た辛さで、それがアサリの旨味と相乗効果を生んでいる。海鮮を使ったあんかけ焼きそばというと広東風をイメージしてしまうが、こんな四川風のアレンジもあるとはなあ。麺の焼き加減も絶妙で、スープが浸みたところの歯応えと塩梅が実に良い。

スープが滲みた麺が良い

四川省は内陸のため、現地では淡水の貝の方がアサリより一般的だろう。しかし井桁シェフは、瓢香のWEBサイトで「日本で海の幸を活かさない手はない」という考えを開陳している。ここで語られる難しさが、まさに氏の自己表現に当たるのだろう。

例えば海がない四川省で魚料理といえば川魚が基本ですが、日本は豊富な海の幸に恵まれた国であり、これを活かさない手はありません。しかし、海魚と川魚では肉質などが異なり、同じように調理すると美味しさを損ねることが多いです。つまり、日本の恵まれた食材を使って伝統的な四川料理ならではの味と感動を再現するためには、時には手法に囚われない柔軟さが必要なわけです。「伝統を守り、柔軟に変える」というのは矛盾しやすくとても難しい課題ですが、この難しさこそが、私のモチベーションの源なのかもしれません。

食事が終わった頃、井桁シェフがわざわざ厨房から出てご挨拶してくださった。こちらこそお礼を言いたい気分というか、お忙しいのにと恐縮してしまう。時間とお財布に余裕があればデザートをのんびり楽しみたいところだが、仕事が控えているのでお会計して店をでた。

ちなみにその日連れていった同僚の一人は、この日が瓢香の初体験。料理とサービスのクォリティが予想以上の高さだったと驚き、「自分の中の中華料理店ランキングの一位が塗り替えられた」と言っていた。誘った身としては「してやったり」である。次は誰を誘おうかな。

店舗情報住所: 東京都港区麻布十番1-3-8 Fプラザ B1F
営業時間: 11:30~15:00, 18:00~23:00
定休日: 月曜日、第1.3火曜日
ホームページ
主なメニューランチセット 1500円~
ディナーコース 9900円~