路傍
「一応これもやきそばなのかな?」シリーズ、2軒目はこちら。
名だたる呑兵衛に愛される中野の居酒屋、路傍。創業は昭和36年(1961年)で、50年以上の歴史がある通好みの渋い店だ。浜田信郎さんのブログ「居酒屋礼賛」で存在を知って、かねてから行ってみたいと思っていた。
昨年の11月頭に初訪問。10日ほど経って、裏を返しに2度目の訪問。引き戸を潜ると外の喧騒とは別世界の落ち着いた空間がそこにある。客席はJ字型のカウンターにそって配置され、J字の曲がり角には囲炉裏がある。囲炉裏の真上には天井から自在鉤が。店主夫妻はその内側で切り盛りしている。
さて、まずは飲み物だが、この店ではやはり樽酒で決まりだろう。看板に「樽酒 路傍」と認められている通り、呉の銘酒、千福の一斗樽が右手に鎮座している。「酒王」の称号に相応しい存在感だ。
樽酒を注文すると女将さんが樽の栓を抜いて片口で受け、1合枡に注いでくれる。枡の角に口を寄せきゅーっと啜ると、酒精とともに木の移り香が鼻腔を抜けてゆく。カーッと胃が熱くなる。あー、いい心持ちだ。
肴はまずお通しが出て、あとは季節の野菜など、その日にある好みの品を前述の囲炉裏で炙ってもらうのがこの店の流儀。この日のお通しはきんぴら牛蒡。2杯目の肴にうるめいわしを炙ってもらった。樽酒との相性は申し分なし。しみじみと美味い。
こんな渋い居酒屋なのだが、壁の品書きには場違いとも思える「やきそば」がある。そう、これが自分の目的なのだ。
日によって品切れもあると聞いていたので「やきそば、今日はありますか?」と確認。「いいですよ、作りますよ」と答えた店主はなにやら見慣れぬ作業を始めた。
器に粉を入れ、囲炉裏に掛けられていたやかんから熱湯を注ぐ。よーく練ってから手のひらで平たい丸型に成形している。女将さんの方は炭火を移した七輪と、めんつゆの入った器と薬味のネギを用意してくれた。そうして出された「やきそば」がこちらである。
素材は蕎麦粉100%。それを熱湯で捏ねて煎餅状にしたものが十数枚お皿に並べてある。そいつを各自が七輪で炙るのだ。まさに「焼き」「蕎麦」=「やきそば」である。早速いわれるままに七輪に乗せてみた。頃合をみてひっくり返し、いい塩梅に焼きあがったらめんつゆに浸してひとくちかじる。
ふむふむ、焦げた蕎麦の風味が香ばしく、素朴な味わいで美味い。店の雰囲気にそぐわないかと思われた「やきそば」だが、こういうスタイルなら納得だ。枚数が多いので結構食べ出がある。自然と酒も進む。食後は出汁を蕎麦湯割りにしてくれた。最後まで美味しい「やきそば」だ。
美味しい肴と店主ご夫妻や常連さんの醸す居心地の良さについつい杯を重ねて、お会計は4700円。いやあ、日本全国食べ歩いたが、地元の中野でこんな珍品に出会えるとはまさに灯台下暗し。なによりお店の雰囲気が気に入った。こういう貴重な空間が残っていることに敬意を抱きつつ、また訪れたい。
店舗情報 | TEL:03-3387-0646 住所:東京都中野区中野5-55-17 営業時間:18:30~24:00 定休日:日曜・祝日 |
---|---|
主なメニュー | ※価格は未確認なので参考程度に 樽酒 800円 つまみ類 7~800円程度 野菜類 4~500円程度 |
ディスカッション
コメント一覧
まだ、コメントがありません