四海楼(早岐)

2019年12月の九州旅、三日目は久留米から佐世保へ向かった。JR鳥栖で佐世保直通の長崎本線へ乗り換え、早岐(はいき)という駅で途中下車した。ここ早岐にある「四海楼」という店が目的だ。

JR佐世保線 早岐駅

「四海楼」と言えば、長崎で最も有名な中華料理店で、ちゃんぽんの元祖とされている老舗だ。早岐の「四海楼」の創業者・大浦仁助氏は、その長崎の四海楼で修行をし、日本人としては例外的に「四海楼」の暖簾分けを許された人物なのだ。長崎四海楼の「ちゃんぽんミュージアム」でも、その旨が掲示されていた。

ちゃんぽんミュージアムにて

長崎四海楼四代目の陳優継氏も、著書『ちゃんぽんと長崎華僑』(2009)で、大浦氏の修業時代や独立する際の経緯について、詳細に綴っている。それによると、1954年(昭和29年)に佐世保駅前で開業。1990年に火事で早岐へ移転した、というところまで書かれている。(なお、現在佐世保駅近くで営業している四海楼という店は無関係らしい)

こうして中華料理「佐世保四海樓」は一九五四年七月、佐世保駅前に開店したのである。そのあと長男の徹氏が跡を継ぎ順調に営業をしていたが、一九九〇年に火事に遭い早岐に移転した。さいわい家族に怪我はなかったが、たいへんな試練だった。二〇〇三年に徹氏が亡くなり、現在は徹氏の失、喜代美さんが店を切り盛りしている。

四海楼(早岐) 旧店舗跡の看板

その早岐(はいき)の四海楼だが、つい最近、移転した。2019年7月21日に旧店舗での営業を終了。9月中旬から、600mほど北の新店舗で再開した。古い店舗の場所にはまだ看板が残されていた。旧店舗時代にも訪れておきたかったなー。

四海楼(早岐) 新店舗

そしてこちらが新店舗。開店時間直後のはずだが、駐車場の看板が準備中になっている。

四海楼(早岐) 店頭サンプル

店頭の食品サンプルは見ての通り、皿うどんは「太麺」と書かれている。細い揚げ麺のサンプルはなし。

外から中が見えない造り

駐車場の看板が「準備中」にも関わらず、店内に入っていく人がいる。試しにドアを開けて中を覗いてみると、すでに結構な数の客がいた。

「すみませーん、もう入れます?」
「はーい、どうぞー」
「駐車場の看板が準備中になってますけど」
「あー、今日は予約が入っててね。準備中でも常連はわかってて入ってくるけん(笑)」

なんとも、おおらかな店だ。2階は宴会場で、1階はテーブル1卓と、カウンター2席。奥に畳の座敷があって、座卓が2つある。その奥の座敷席へと案内された。

蓋つきの温かいお茶が嬉しい

着席すると、蓋のついた器で温かいお茶が出された。寒い季節なので嬉しい。

ちゃんぽん・皿うどんの解説

メニューの冒頭にはちゃんぽんの発祥と皿うどんについて書かれている。そこには四海楼創業者、陳平順氏の直系の弟子という誇りを感じた。

当四海楼では、皿うどんは、当初のままに、太麺を皿うどんとしてお出ししております。
また、揚げた細麺にあんを掛けたものを、焼きそばとしてお出ししております。
当店の〝ちゃんぽん〟と〝皿うどん〟をどうぞ、ご賞味下さいませ。

食品サンプルもそうだが、メニューでもちゃんぽんと太麺皿うどんが推されていて、パリパリ細麺の方はそんなに推奨されていない。しかし、今回はあえてそのパリパリ細麺の方を注文した。なぜかというと、「焼きそば」という名前だからだ。

ちゃんぽん・皿うどんメニュー

拙稿『長崎皿うどんの歴史的考察』にも書いたが、長崎の四海楼では細麺皿うどんを「炒麺」と呼んでいる。しかし、太麺皿うどんを標準としている他地域の老舗中華料理店では、「炒麺」と呼ぶ店は皆無で、「焼きそば」という呼ぶ店ばかりだ。(↓北九州市 中山楼(昭7, 1932)のメニュー)

北九州市 中山楼(昭7, 1932)のメニュー

私は「なぜそんな違いが生まれたのか」と考え、かつては長崎の四海楼でも、「炒麺」ではなく「焼きそば」と呼んだ時期があったのではないか、という仮説に至った。その根拠を、ここ早岐四海楼の「焼きそば」に求めて訪れたわけだ。揚げた「炒麺」を「焼きそば」と訳すのは、横浜と全く同じで、ごく自然な成り行きなのである。(↓熊本市 紅蘭亭(昭9, 1934)のメニュー)

熊本市 紅蘭亭(昭9, 1934)のメニュー

何を注文するかにいちいち理由を求めるなんて、我ながらほとほと面倒くさいやつだなあ、と思いつつ「焼きそば(650円)」を注文。ご飯・スープ・デザートのついたセットもあったが、食べ歩きなので単品でお願いした。

焼きそば 650円

注文が立て込んでいたようで、配膳までに20分近く掛かった。こんもりと嵩のある揚げ麺に、白濁したスープをまとった餡が掛けられている。

香ばしい極細揚げ麺に餡が絡む

餡の具は豚肉、ハンペン、竹輪、モヤシ、キャベツ。ハンペンは赤と緑のカラフルなやつだ。餡の味付けはさっぱり気味で、品のある旨さだ。揚げたて極細の麺は香ばしく、餡との相性はバッチリ。渡されたソースを掛けて味わいの変化も楽しんだ。

ウスターソースで味変も

餡の粘度が高めなので、最後までパリパリの状態でいただけた。このスープなら、ちゃんぽんも絶対に美味しいだろうなあ。ちゃんぼんも太麺皿うどんも食べてみたいが、それは次回来た時の宿題だな。

待ってる間に他の一人客と相席になった。また、予約していた団体もやってきて、2階へ案内されていた。みんな、地元の常連さんのようだ。65年も続いてきた佐世保の味。何代にも渡って食べに来ている人もいるんだろうなあ。