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銀座アスター 本店

2016年11月21日

あんかけ焼きそばをテーマにしばらくやってきましたが、この流れでかた焼きそば特集へと移行してまいります。最初に紹介するのは文字通りの名店、銀座アスター! 当ブログもついに高級志向へ……なんてこたあ無いのですが、かた焼きそばを語る上では外せないお店なのです。かた焼きそばの発祥についての仮説紹介などもありまして、いつも以上に長文で写真も多いですけど、ご了承くださいませ。


かた焼きそば。アジアを含めた世界各地で「広東風焼きそば」「広東炒麺」「広州炒麺」とも呼ばれることが多い料理だが、実はアメリカ生まれという説がある。かた焼きそば研究家のmaruosa氏この記事にも詳しく書かれているが、この説が意外にも信憑性が高いのだ。例えば私が台湾で購入した麺料理の本にも同趣旨のコラムが掲載されていた。

廣州炒麵發源地是在廣州嗎?

頃は19世紀、場所はアメリカ西海岸のサンフランシスコ。ゴールドラッシュに沸くこの地には中国、特に広東地方から移民が多く渡っていた。彼らの営む中華料理店から肉や野菜の余り物を炒め煮にしたチャプスイ(chop suey)という料理が誕生して大流行。アメリカ風中華料理として定着し、ご飯や麺に掛けて食べるようになった。さらに、本来は水に戻して使うべき揚げ麺にそのままチャプスイを掛けてくれという客が居て、これも大当たり。「広東炒麺(Cantonese Chow Mein)」「広東風焼きそば(Cantonese Style Fried Noodles)」と名付けられ、アメリカから中国を含むアジアにまで逆輸入された……とまあ、粗筋はこんなだ。

中国本土には伊府麺や潮州煎面(麺)・両面黄など、かた焼きそばに近い伝統的な食材・料理はある。しかし水で戻すのが前提だったり、砂糖と酢を掛けるスイーツだったり、麺の中心部は柔らかなままだったり、やはりどれもかた焼きそばとは異なる。現代の香港や広州にはかた焼きそばを提供している店も勿論あるが、百度(baidu)で中国本土の情報を調べても、それらがいつ頃成立したのかは不明だった。また長崎皿うどんの場合はもともと柔らかい太麺が使われた料理だ。極細の揚げ麺が後に導入されたが、その時期はどうもはっきりしない。(ちなみに日本ではかた焼きそばを炸麺と表記する店が多いが、中国本土だと「煎麺」が一般的、炸麺は揚げパン[油条]やドーナツを指す場合が多いようだ)

そんなわけで少なくとも現段階では「かた焼きそばのルーツは19世紀のアメリカまで遡ることができる」という説は正しいと思われる。(さらに興味のある方はこの記事(英語)もどうぞ)

銀座アスター創業当時のチラシ

さて、この流れで登場するのが日本を代表する中華料理店のひとつ、中国名菜・銀座アスターだ。昭和元年に銀座で開業したこの超有名店が、チャプスイを筆頭とするアメリカ風の中華料理を初めて日本に持ち込んだ。創業75周年を記念して刊行された『銀座アスター物語』に掲載されている創業時のチラシには「チャウメン(焼麺料理)」の文字もある。

銀座中央通り 銀座アスター 本店

その後、創業者が本格中華を指向して料理の質が変わったため、創業当時の焼きそばがどのようなものだったかは知る由もない。ただ揚げ麺にチャプスイを掛けたかた焼きそばだった可能性も否定できない。件のmaruosa氏も述べている通り、少なくともかた焼きそばを語る上で外せない店なのは間違いないだろう。

日本が世界に誇る繁華街、銀座中央通り

というわけで今年の7月、やってきたのは海の日で歩行者天国の銀座通り。そのメインストリートに建つのが銀座アスター本店のビルヂングだ。アウェー感満載、気品あふれる外観に気後れするが覚悟を決めて入店。お昼時で家族連れなど数組の先客が案内を待っている。一人でもにこやかに受け付けてくれる辺りはさすが銀座の老舗。順番がやってくると案内されて豪奢な階段へ。促されるまま二階の一角に着席。

銀座アスター 炒麵系アラカルト

すぐに飲み物・コース・アラカルトと3部のメニューを渡された。手頃な高級感とでも表現したくなる価格帯だが、自分の財布の中身を考えるとコースや飲み物に手を出す余裕はない。一見なのはバレバレだろうが一応は慣れている風を装いつつ、アラカルトのメニューをおもむろに開き、焼きそば(什錦炒麺・1800円!!)を単品で注文する。

「揚げた麺と柔らかい麺がございますが、どちらに?」
「揚げた麺でお願いします」

茶器も箸もテーブルクロスもオーラが違う

雰囲気がハイソ過ぎて待つ間も落ち着かない。テーブルクロスの白さが目に痛い。箸の縦置きは本格中華の証。茶器ですら普通の店とはオーラが違う。長崎の四海楼や天神の福新楼を超える緊張感だ。田舎のネズミの気分でお茶を喫みつつ待つこと10分ほど。焼きそばの皿と薬味のマスタード、レモンが恭しく配膳された。

焼きそば(什景炒麺) 1800円

麺はパリパリに揚げられた中細麺。エビ、赤チャーシュー、豚肉。キャベツ、ネギ、青梗菜、筍。シメジ、干し椎茸、ふくろだけ。それらの具がとろみの付いた餡を控えめに纏って麺をデコレートしている。

香ばしい麺に深い味わいの餡を絡めて

香ばしい麺。深い味わいの餡。具はどれも大ぶりで存在感を主張している。食べごたえのあるエビとチャーシュー、厚みのある干し椎茸が特に印象に残った。添えられたレモンとマスタードで風味を整えるのも楽しい。さすが一流店自慢の逸品。実に美味しかった。

海老は小麦粉を塗してから火を通しております

さてお会計。価格は1800円となっているが消費税を加えて1944円。さらにサービス料10%追加で194円。合計で2138円。うひゃー、ランチでまさかの2000円越え。満足度高いが値段も高い。これまで食べた焼きそばで断トツの最高額だわ。

ところで実際には銀座アスターの焼きそばは柔らかい麺の方が人気だ。前掲した『銀座アスター物語』では、「焼きそば評判記」の節で次のように述べられている。

麺を蒸して焼いて、鍋に当たる表面は香ばしく焦げていても、裏には柔らかいところが残る。それが「アスターの焼きそばはうまい」という評判をもたらしたのだ。

かた焼きそばのルーツを偲んで今回は敢えてかた焼きそばにしたが、やはり柔らかい麺も食べねば片手落ちだろう。というわけで後日再訪! 財布に痛い!!

柔らかい麵も後日賞味、こちらも美味!

見た目は全く変わらないが、麺の表面だけがカリカリで中はふんわり柔らかい。改めて食べると豚肉のきめ細やかさに普通の店との違いを感じる。脂身がこんなに美味しいなんて。さすが銀座アスター、価格に見合う味とサービスだった。脱帽。首都圏のほか、名古屋や大阪にも支店があるのでハレの日の焼きそばとしてご利用されたし。

銀座アスター 本店

店舗情報TEL:03-3563-1011
住所:東京都中央区銀座1-8-16 GINZA ASTER BLD
営業時間:11:30~22:00
定休日:無休
ホームページ
主なメニュー焼きそば(什景炒麺) 1800円
※消費税・サービス料別