縄文の豚
新宿西口、思い出横丁のラーメン若月が今年1月に閉店した。Twitterには嘆きの声が溢れ、閉ざされたシャッターに貼られたお知らせの紙には慰労のメッセージが寄せられた。
思い出横丁、若月の閉店が辛すぎる……
— 塩崎省吾『ソース焼きそばの謎』発売中 (@SaltyDog_wow) January 21, 2018
もちろん私も悲嘆にくれた。東京を代表する焼きそばの老舗。そして私が焼きそばブログを始めるに当たって初回記事に選んだ店でもある。思い入れはひとしおだ。
時は流れて今年の6月14日。若月の跡地にもつ焼きの店がオープンした。屋号は「縄文の豚」という。
若月の頃は直線のカウンターだけだったが、縄文の豚では奥にも席を設けてL字カウンターになっている。内装もずいぶんと綺麗になったが、若月の頃の雰囲気は色濃く残っている。
お通しのキャベツ味噌が300円、もつ焼きのおまかせ5本盛りが680円。観光地化の一途を辿る思い出横丁の新店としては、リーズナブルで良心的な価格設定だ。焼台に立つのは寿司職人を30年やっていたという男性。その方のお話によると、同横丁に複数店舗を出店している埼玉屋さんの紹介で開業したそうな。
実はここからが本題。その縄文の豚では平日の昼間にランチをやっている。塩見なゆさんのツイートで知ったのだが、その縄文の豚の平日ランチで、なんとあの若月の焼きそばが復活したのだ! しかも焼いているのは元若月店主の竹内次作さん、ご本人というから驚きだ。
矢も盾もたまらず、平日に仕事を抜けて訪問してみた。ご本人にうかがったところ、健康上の理由で若月を閉店したが、ランチ程度の短時間なら大丈夫ということで、9月7日くらいから復活したそうな。若月を一緒に営まれていた奥様も、店には出ていないがお元気とのこと。いやー、良かった良かった。実に喜ばしい。
ランチの焼きそばは並盛り(500円)と大盛り(600円)がある。復活祝いも兼ねて大盛りと瓶ビールを注文。焼きそばの価格は100円ほど値上がりしていて、瓶ビールもサッポロ・キリンの両ラガーからプレミアム・モルツに変わってしまった。さらに焼きそば用の鉄板は新調され、中央にあった窪みも見当たらない。
しかし若月ファンとしては再び味わえるというだけで感謝したくなる。菜箸とヘラでチャッチャと焼き上げる竹内さんの手付きも当時のままだ。1948年(昭和23年)に創業した若月で、ご主人が焼きそばを焼き始めたのが今から約50年前。以来、半世紀。鉄板の前に立てば身体が自然と動くのだろう。
出来上がった焼きそばを皿に盛り付け、「はい、どうぞ」。若月独特の太い蒸し麺にキャベツ、モヤシ。青海苔と紅生姜をトッピングして、「味が薄かったらどうぞ」とソースのボトルを添えてくれる。ああ、まさかこの山盛りのビジュアルを再び拝めるなんて!
色が心持ち濃くなってキャベツもやや増えたかな。でも味わいはかつての若月と全く変わっていない。短く千切れて少し焦げた太麺の独特なあの歯応え。後がけソースをぐるっと掛ければ、より一層ビールに合う。あー、これだ。この味だ!
若月というと自家製麺のラーメンでも有名だった。そのため焼きそば用の麺も自家製と勘違いされがちだが、実は蒸し麺は業者へ特注している。以前は終日営業なのでまとまった量を仕入れていた。しかし平日ランチの分だけだと注文量が限られてしまう。蒸し麺は手間が掛かるため、量が少ないと普通は断られる。しかし今回は特別に請け負ってもらえて復活が実現したそうだ。製麺業者さんにも感謝感謝である。
そういえば日本テレビの『誰だって波瀾爆笑』という番組で、私が若月を紹介したのは昨年9月10日の放送回だった。それからちょうど一年。この一年の間に若月が閉店し、しかも復活するなんて想像だにしなかった。
五反田で再開した後楽そばや、先日紹介した前橋のあくざわ亭など、今年は老舗の焼きそば復活の報が相次いでいる。私の焼きそばブログの主目的は、各地で愛されてきた焼きそばを記録として残すことだが、焼きそばそのものが次代に受け継がれるなら、これに越したことはない。
一度消えた思い出横丁「若月」の看板に、約8ヶ月ぶりに明かりが灯された。外が明るいため気づきにくいかも知れないが、焦げたソースに引き寄せられて、また多くの人が訪うことだろう。
「前回の東京オリンピックのときは、ここからブルーインパルスが空に五輪を描くのが見えたんだよ」
そう語ってくれる竹内さん。2年後に控えた東京オリンピックも、この鉄板の前で迎えることになりそうだ。
店舗情報 | TEL: 03-3342-7060 住所: 東京都新宿区西新宿1-2-10 ※焼きそばは平日ランチのみ 月〜金 16:00まで → ホームページ |
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主なメニュー | 焼きそば 500円 大盛り 600円 |
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