ヌアサヤム
今回紹介するのは歌舞伎町にあるヌアサヤムというタイ料理店。前回紹介したバーン・タムと同じく、店主(女将)はタイ東北部のイサーン地方の出身らしい。クンプーさんやカレー細胞さんの記事を読み、そのディープさを確かめに行ってみたくなった。
訪れたのは2月上旬、平日の21時半過ぎ。場所は風林会館の斜向かいを少し東に歩いた辺り。歌舞伎町でもこの辺りは特別に濃厚な雰囲気を醸している。外観の写真を撮る場合も、変な人や物が写らないように気を付けねばならぬ。
看板を頼りに二階へ登ると「ヌアサヤム」と書かれたドアが現れた。「ヌア(เหนือ)」は「北」、「サヤム(สยาม)」は「シャム」=「タイ」で、屋号は「タイ北部」を意味している。ちなみに「イサーン(ภาคอีสาน)」は「東北」を意味していて、タイの中でも北部とは別地域だ。
「サワディークラーップ」と挨拶しながら入店。「サワディーカー」と女将さん。客席は6人掛けのテーブルが6卓ほどで先客なし。タイカラオケ&飾りつけが無意味に派手で、「うわあ、タイだー」って感じ。いやあ、期待通りの店だ。凄いなー。
とりあえず生ビールと「ソムタム(ส้มตำ/1500円)」を注文。この店のソムタムは「タイ風(ソムタム・タイ)」と「イサーン風(ソムタム・イサーン)」がある。
「この、ソムタム・イサーンはサワガニ入り?」
「うんうん、ソムタム・プーね」
「じゃ、それください」
「辛いの大丈夫?」
「はい、大好き!」
「オッケー!」
やがて厨房からゴツゴツと専用の鉢で食材を潰す音が聞こえてきた。注文から15分ほど生ビールを呑んでいると、「お待たせー」と一見ヘルシーなサラダ風のお皿が運ばれてきた。
「ソムタム(ส้มตำ)」は青パパイヤを使ったサラダで、日本のタイ料理店でも良く見かける定番メニューだ。「ソム(ส้ม)」は「酸っぱい」、「タム(ตำ)」は「搗(つ)く」を意味し、細く切ったパパイヤや生のインゲン、薬味などを専用の鉢で搗きながら混ぜ合わせて調理する。ヌアサヤムのソムタム・イサーンはパパイヤ・インゲンのほか、人参・ニンニク・唐辛子、そして塩漬けのサワガニ(プーケム/ปูเค็ม)が使われている。これが女将の言ってた「ソムタム・プー(ส้มตำปูเ)」だ。
見た目はヘルシーだが、赤いのはトマトでは無く生の唐辛子なので、相当な辛さがある。それに加え、塩漬けサワガニの癖のある臭いのせいでタイ人でも苦手な人が多いらしい。しかし個人的には、ガツンとくる辛さが気に入った。発酵させた魚(プラーラー/ปลาร้า)を加えた「ソムタム・プー・プラーラー(ส้มตำปูปลาร้า)」ってのも店によってはあるらしい。いつか試してみたい。
ちなみにソムタムの付け合せは串切りキャベツと、豚肉の皮をカリカリに素揚げした「ケープ・ムー(แคบหมู)」。上板橋のフィリピン料理店・カバヤンで食べた「チチャロン・バボイ(Chicharon Baboy)」を思い出す。東南アジアではきっとポピュラーなスナックなのだろう。
ソムタムのボリュームが思いのほか多く、あとはチャーンビールとパッタイ(1200円)で締めることにした。チャーンビール(Beer Chang)はシンハービールに比べると知名度は低い。私も飲むのは初めてだが、雑味が多く、なんかピンと来ない味だ。うーん、シンハーの方が好みだな……。
そしてパッタイ(ผัดไทย/Pad Thai)。この店では「海老入り焼きビーフン/1200円」と紹介されている。英語表記は「Fried Noodle in Thai Style」。太麵のセンヤイ(เส้นใหญ่)を使った「パットシーイーウ(パッ・シーユ/ผัดซีอิ๊ว/Pad See-ew)」もあるが、それは次回、別の店の記事で紹介しよう。
パッタイの麺は米が原料のクイッティオ・センレック(ก๋วยเตี๋ยว เส้นเล็ก)。玉子と剥きエビ、干しエビ、砕いたピーナッツ、モヤシを一緒に炒めてある。小さな干しエビと生の韮をトッピングし、脇にレモンと唐辛子が添えられていた。前回紹介したバーン・タムは唐辛子が見当たらなかったが、同じイサーンでも微妙に違うようだ。そぼろ状のトッピングは何だろう? 食べてみたが分からず。ひと口にパッタイと言っても、店によって微妙な差異があるのが面白い。
味付けはタマリンドの酸味がベースで、やはりかなり甘い。エビや玉子、ナッツの旨味に、柔らかいけど伸びやかなセンレック独特の食感が良い。量も結構ある。レモンや唐辛子をアクセントで加え、渾然一体となった複雑な味わいを楽しい。最後の方は唐辛子を全部混ぜたのだが、ちょっと辛くし過ぎた。いかんいかん。
ところでタイ料理店ではテーブルに調味料が4つ置かれていることが多い。これはタイ語で「調味料」を意味するクルワンプルーン(เครื่องปรุง)と呼ばれ、通常はタイ料理の味付けの基本となる甘・酸・辛・鹵の4つの要素を代表する砂糖(ナムターン/น้ำตาล)、魚醤(ナムプラー/น้ำปลา)、唐辛子(プリックボン/พริกป่น)、お酢(ナムソム/น้ำส้ม)が用意されている。調理の際は砂糖の代わりにパームシュガーやココナッツシュガー、お酢の代わりにライム(マナオ/มะนาว)やタマリンド(マカーム/มะขาม)を使うことも多い。ソムタムもパッタイも、これら四味のバランスを考えて調味されているのだ。自分で味を調える際も、そのバランスを意識すると良いかも知れない。
ソムタムとパッタイですっかり満腹になったところで、お会計。ビールと合計でちょうど4000円。歌舞伎町にこんな穴場のタイ料理店があるとは嬉しい誤算だった。イサーン本来の辛さを存分に堪能して、胃が悲鳴を上げている気がする。翌朝のトイレが怖いなあ。
店舗情報 | TEL: 03-3207-8653 住所: 東京都新宿区歌舞伎町1-2-16 第一オスカービル 2F 営業時間: 18:00~翌4:00 定休日: 月曜 |
---|---|
主なメニュー | パッタイ 1200円 ソムタム 1500円 |
ディスカッション
コメント一覧
まだ、コメントがありません