馬来風光美食

今週から3週間に渡って、マレーシア・シンガポール・インドネシアの焼きそばを特集します。かなり気合が入っている特集ですよー! まず今週はマレーシアから!


マレーシア、シンガポール、インドネシア。東南アジアでも地理的に近いこの3ヶ国は、食文化も似ていて共通する料理も多い。焼きそばも例外ではなく、ホッケンミー(福建麺/Hokkien Mie)やミーゴレン(Mie goreng)、チャー・クイ・ティアオ(炒粿條/Char Kway Teow)など、焼きそば系の麺料理が各国で食べられている。

マレーシア・シンガポール・インドネシアの位置関係

ただし、ここで一つ大きな問題がある。実は同じ名前の料理でも国や地域によって全く違うのだ。具体的にどう違うのか、焼きそばマニアとしては大いに気になる。そこで東京にある3ヶ国それぞれの料理店を食べ歩いてみた。

荻窪 マレーシア料理 馬来風光美食

最初に紹介するのは荻窪にあるマレーシア料理店、馬来風光美食。創業は2000年(平成12年)。かなりの人気店で行くなら予約をするほうが良いらしいが、一人で予約というのもなんなので予約なしで直接訪れてみた。5月下旬、平日夜のことである。

荻窪駅の北口を出て、青梅街道沿いを東へ数分。看板はあるが明かりがついていない。もうラストオーダーか? あるいは予約でいっぱいなのか? どうしたものかと考えあぐねていると、二組の客が店のある地下から上がってきた。とりあえずダメもとで訊いてみようと地下へ降りる。

看板の灯りが消えてる?

「一人ですけど入れます?」
「どーぞー、カウンターへ」

拍子抜けするほどすんなりと入店できた。カウンター5席、テーブル2卓。先客はテーブルにカップルが一組。店主は人懐こい笑顔の女将、エレンさん。クアラルンプールとペナンの中間くらいに位置するイポーという町の出身だとか。バイトらしき若者一人。彼も中国系のマレーシア人のようだ。

「表の看板の電気が消えていたのでやってないのかと」
「あー、きっと電球の寿命です、すみません」

タイガービール たぶん600円くらい

とりあえずシンガポールのタイガービール(たぶん600円くらい)と、この店の名物・肉骨茶(バックッテー)の小(800円)を注文。お通しは甘辛胡麻ダレの野菜。暑い日だったのでビールが美味い。ちなみにマレーシアはイスラムが国教なので、国内でのビール生産を禁止している。そのためビールはシンガポールの輸入ビールが一般的なのだ。

肉骨茶(バックッテー)  小 800円

肉骨茶は豚肉の薬膳スープのこと。小サイズなので小鍋で提供された。骨付きの豚バラ三枚肉のほか、油揚げ・えのき・レタスが煮込まれ、パクチーがたっぷりトッピングされている。スープからは八角など漢方薬チックな香りが漂ってくる。滋味溢れる味わい、奥行きのある旨さだ。

身体によさそうな味わいなのです

つけダレは唐辛子とニンニクと黒酢かな。スパイシーで刺激的なこのタレをつけると、豚肉がさらに美味しくなって箸が進む。イスラム教の国だけど中国系の国民も多いため、豚肉を使った料理も普及しているってのが面白いなあ。基本的には住み分けているらしいけど。

タイガービールをお代わりして、次に注文したのはこの日のオススメ、ルンダン(rendang)。ルンダンは牛肉のカレー煮のことで、マレーシアでは定番の料理だ。ニュージーランドでも食べたことがあるが、いわゆるビーフカレーと言えば分かりやすいか。一緒にご飯やロティを勧められたが、この後に焼きそばを食べるつもりだったので敢えて単品でお願いした。

ルンダン たぶん900円くらい

味付けのベースはココナッツミルクとジンジャー。ほかにも諸々多くのスパイスがバランスよく効かせてある。ぎゅっと締まった牛肉は旨味の塊だ。断っておいてなんだが、ご飯が欲しくてたまらない。値段はたぶん1000円くらい。

スパイスの滲みた牛肉のうまいこと

ルンダンの美味しさにタイガーの三本目をおかわり。そして締めに本日の品を注文することに。メニューには見当たらないが、できることは事前に確認済みである。

「ホッケンミー(福建麺/Hokkien Mie)をお願いします」
「ホッケンミーはエビスープの方?」
「いや、Friedで!」
「OK! Friedね(笑)」

そして出てきたのはマレーシアの首都、クアラルンプール式のホッケンミーだ。価格はたぶん900円くらい。ちなみに「エビスープの方」というのは、マレーシア北西部の都市・ペナン式のホッケンミーのこと。さらにシンガポールもスタイルが全く異なる。どちらも後日紹介する予定なのでお楽しみに。

ホッケンミー たぶん900円くらい

さて、クアラルンプール式のホッケンミー。麺はうどんに似た柔らかい太麺を使用。台湾料理店なんかでも使っている中華麺だそうな。具は小松菜とエビが5尾。大きなエビで、なかなか贅沢だ。その上にオニオンフライがトッピングされている。味付けはダークソイソース=甘味のある中華系の溜まり醤油がベースで、ニンニクと砂糖が効かせてある。つゆだくで濃厚な甘じょっぱい味だ。ただし見た目ほどくどくはない。

ダークソイソースで甘じょっぱいつゆだくの焼きそば

名前は福建麺だが、麺も味も福建というよりは上海焼きそば(本場の方)を思い出す。横浜中華街の東北人家で食べた焼きそばが一番近い。もちっとした麺にソースの旨味がマッチしてなかなか美味しい。そして楕円形をしたステンレス製の銀皿なのもポイント高い。食べ終えたあとに大量のソースが残ったが、これロティに塗って食べたいなあ……。

この店ではペナン式ホッケンミーもやっているが、現地ではいろいろなメニューを出す食堂というのはほとんど無いらしい。炒め物専門店とかペナン式専門店とかで分かれているそうだ。エレンさんはお母さんが飲食店をやってた影響もあり、自分で色んな料理を身につけたとのこと。なるほどねー。

馬来風光美食 店内の様子

その後も食事と会話を楽しんで、お会計は4500円。美味しかったし、なにより温かい接客が嬉しかった。エレンさん、背が低いのでカウンターの向こうにいると見えないけど。

「もしマレーシアへ行くときは何でも聞いてね!」

わーい、そうさせていただきます。なお、オープン当時から通っているというメシコレ仲間の椿さんから、『馬来風光美食へ行くときは「ひろこの店」を目指すのだ』との金言を賜った。行けばわかるはずなので、参考にしてください。

馬来風光美食

店舗情報TEL: 03-5938-8633
住所: 東京都杉並区天沼2-3-7 SAKAIビルディングB1
営業時間: 18:00~23:00(土日 16:30~)
定休日:月曜
ホームページ
主なメニュー肉骨茶(バックッテー) 大 1600円 小 800円
ホッケンミー、ルンダンなど