上海小吃
いきなりだが中華料理に特化したWEBマガジン、80c(ハオチー)をご存知だろうか。充実した内容の記事が多くて愛読しているのだが、中でも「中国全省食巡り」という連載がとても楽しい。執筆者は飽くなき探究心で中国本土を食べ歩いている酒徒さん。料理への思い入れがほとばしる文章で食欲が刺激されること間違いなし。ぜひご一読いただきたい。
その連載第一回「上海で食べるべき料理3選」では「菜饭」「糖醋小排」「葱油拌面」という料理が紹介された。どれも耳にしたことのない料理だが、記事を読むと無性に食べたくなる。可能ならもちろん現地へ行きたいが、とりあえず予習のつもりで食べておきたい。そんな欲求もあり、知り合い2人と新宿で飲む機会に歌舞伎町の上海小吃を提案してみた。
上海小吃は「思い出の抜け道」と呼ばれる一角にある上海家庭料理の店だ。「思い出の抜け道」は思い出横丁やゴールデン街にも増して往年の雰囲気を色濃く残すエリアで、足を踏み入れるだけでも楽しめる。店自体も中国本土を想起させる造りで、品揃えも幅広い。特に虫や珍しい肉・部位を提供する珍味の店として知られている。
まずは青島ビールで乾杯。2人に断って、例の記事で取り上げられていた料理3品を注文。この店が2軒めで胃袋もだいぶ膨れていたので、あれこれ試す余裕がない。お通しとして出された蓮根とパプリカの炒めものをつまんでいると、「菜饭」「糖醋小排」「葱油拌面」の順で運ばれてきた。
1品目は上海菜饭(シャンハイ ツァイファン/1500円)。この店のメニューでは「上海野菜チャーハン」という日本語訳が当てられているが、正確には炒めた具を使った炊き込みご飯だ。
件の記事によると本場では平たい巨大な鉄鍋を使うそうだが、この店では和風の土鍋を使っている。ラードを混ぜ込んだツヤツヤご飯と細かく刻んだ青梗菜に、干し肉らしき極小の赤い肉片が混ざっている。素朴ながらもコクたっぷり。滋味あふれる味わいだ。
続いて糖醋小排(タンツゥシァォパイ/1200円)。メニューの日本語訳は「スペアリブの甘酢煮」。「骨付き肉を中国から取り寄せた黒酢(香酢)で煮込んだもの」との説明書きが付されている。3〜4cmに寸断されたスペアリブを手に取り、前歯で骨からこそげ取るように齧りつく。濃厚な甘さとほどよい酸味の煮汁が、柔らかな肉と衣によーく滲みてて、実に美味い。極上の酒の肴だ。
3品目が葱油拌面(ツォンヨウ バンミィェン)。この店では「葱油面/ネギ油ソバ(850円)」という名前で提供されている。ネギをじっくり炒めた油をベースにしたタレと麺を絡めた麺料理だ。タレは中国のたまり醤油・老抽や砂糖などを使っていて甘じょっぱい。食材は麺と葱だけというとてもシンプルな料理なのに、後を引く不思議な食味だ。
味付けも特徴的だが、麺の食感も独特だ。太さは中細で断面は丸いストレート麺。原料は小麦粉だと思うが、もしかしたら乾麺かも知れない。押し出し麺ぽいムニュムニュした腰の無さで、雲南米線を思い出させる。
「油そばなら、焼きそばじゃなくね?」
「焼きそばブログで紹介していいの?」
そんな声が聞こえて来そうだが、実際のメニューを見てほしい。
実物はあらかじめ麺とタレが絡めてあってメニュー写真とは全く違う見た目だが、注目してほしいのはそこではない。
油で炒めたネギに麺を絡めた焼きソバです
そう、この店のメニューではこの葱油面(ネギ油ソバ)を「焼きソバ」と紹介しているのだ。私個人の焼きそばの定義のひとつ、「焼きそばという料理名で提供されている」という条件にドンピシャで適っている。本来は「炒面(炒麺)」ではなく「拌面(拌麺)」なのだが、少なくともこの店の葱油面は焼きそば扱いでも間違いではないのだ。えっへん。
青島ビールの後は上海老酒・石庫門をボトルで注文。「碧緑毛豆(ちんげん菜と枝豆/800円)」を追加するなどして、お会計は1人2700円くらい。以前、一人で食べた「麺筋絲瓜(麩とヘチマの煮込み/1500円)」も美味しかったし、珍味目当てでなくてもおすすめしたい店だ。
目的だった3品を全て食べることができ、新鮮な食体験を経て中華料理の奥深さをこれまで以上に実感した。ただ、あくまでもここは東京。いつかは現地、上海の専門店や人気店で食べてみたい。その思いを新たにした。
店舗情報 | TEL: 03-3232-5909 住所 : 東京都新宿区歌舞伎町1-3-10 営業時間: 18:00~翌5:00(日祝 ~翌2:00) 定休日: 無休 → ホームページ |
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主なメニュー | 葱油面(ネギ油ソバ) 850円 上海菜饭(上海野菜チャーハン) 1500円 糖醋小排(スペアリブの甘酢煮) 1200円 碧緑毛豆(ちんげん菜と枝豆) 800円 麺筋絲瓜(麩とヘチマの煮込み) 1500円 |
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