維新號 銀座本店
今週から5週に渡って、上海風焼きそばを特集します。本文に入る前に長ーい薀蓄を述べますよー! 長文が苦手な方は読み飛ばしてください!
上海焼きそばと聞いて、あなたはどんな焼きそばを思い浮かべるだろうか? 人それぞれだろうけれども、たぶん次の3つがほとんどだと思う。
一つは現地・上海で食べられている極太麺の醤油焼きそば。具は豚肉・青菜・干し椎茸とシンプルで、老抽(中国のたまり醤油)で甘辛く味付けされた焼きそばだ。上海で焼きそば(炒麺)といえばこれなのだが、日本では横浜中華街の萬来亭などごく限られた店でしか食べることが出来ない。これを思い浮かべる日本人は少ないだろう。
二つ目は両面をカリっと焼き上げて肉や野菜のうま煮を掛けた餡掛け焼きそば。これは上海料理の「両面黄」に当たり、日本の中華料理店でもこれを上海焼きそばとして提供している店がチラホラある。ただし餡掛け=広東風という印象の方が強いのか、あまり一般的ではない。
最後は日本で最もポピュラーな「上海風焼きそば」。店によって呼び方は異なるが、「上海”風”」と呼ばれることが多いので、当サイトではとりあえずそう呼ぶことにする。「細麺を使った炒めそば」「味付けは醤油やオイスターソース」「具は細切りにした肉野菜」「エビや干椎茸もあり」などの特徴が挙げられる。前述の通り、上海の一般的な焼きそば(炒麺)とは大きく異なるが、日本ではこれが定着している。
上海には存在しない上海風焼きそば。この焼きそばがどこで生まれ、なぜ「上海風」と名付けられたのか。これまで興味を持った人はいるようだが(こちらやこちら)、たぶん突き詰めて考察した人はいない気がする。
これは私の仮説なのだが、「上海風焼きそば」は恐らく明治から昭和に掛けての神保町界隈で誕生した(より厳密に言うと、このタイプの焼きそばを「上海風」と名付けた)のではないか、と考えている。どういうことか説明しよう。(以下、『東京人・2011年11月号(特集・チャイナタウン神田神保町) 』を大いに参考にさせていただいた)
今でもその名残はあるが、明治から昭和初期に掛けての神保町は、中国大陸からの留学生が多かった。最盛期で5万人も居て、ちょっとしたチャイナタウンになっていたらしい。広東出身者が中心だった横浜に比べると、特に山東や寧波からの留学生が多かったそうで、やがて大陸の郷土料理を出す店も現れた。その中でも、浙江省の寧波出身者の料理店で出されたのがこの焼きそば、というのが私の仮説だ。それ以外の古い中華料理店を探しても不思議に見当たらないのだ。
当時の東京の中華料理は浅草・来々軒や人形町系大勝軒など広東料理が主流で、中華風の焼きそばと言えば餡掛けばかりだった。それとは違う焼きそば(炒めそば)だと客に分からせる意味で別の料理名にしたい。でも「寧波焼きそば」では分かり難い。じゃあ寧波とも近い上海風ってことにしとこうか。そんな流れで「上海風焼きそば」が生まれたのではないだろうか。安直かも知れないが、中華丼とか天津飯とか台湾ラーメンとかナポリタンとかアメリカン・コーヒーとか、地名を冠した料理名は結構いいかげんなものなのだ。
ちなみに現代の寧波ではどんな焼きそばが食べられているかをbaidu.comで調べたところ、「上海風焼きそば」に似た焼きそばが見つかった(例1・例2・例3・例4)。もしかしたら、これらの焼きそばがルーツかも知れない。そう考えると自分の仮説もそんなに的外れでは無いと思うのだが、どうだろう。
とりあえず仮説は仮説として、実際にどの店でどのような焼きそばが出てくるかを紹介しておこう。まず今週は神保町で明治時代に創業したお店を3軒紹介したい。ここからようやく普段の記事になる。
上海風焼きそば特集として最初に取り上げる店は、明治32年(1899年)創業の中華料理店・維新號だ。創業者は寧波出身。元々は旧神田区の今川小路(現在の神保町三丁目)に店を構えていたが、昭和22年に銀座へ移転した。神保町で創業し現存する中華料理店としては最も古い。
訪れたのは昨年11月中旬、平日の昼下がり。維新號の銀座本店はファッションビルの地下にある。狭い階段の上部には達筆な屋号を刻んだ額が厳かに掲げられていた。
階段を降りて店内へ。格調高い落ち着いた雰囲気だ。フロアにはテーブルが余裕を持った間隔で並べられ、書画や骨董品がさりげなく飾られている。
椅子の背もたれにも屋号が刻まれていた。さすが老舗の中華料理店。調度品ひとつにも心が配られていることについ感心してしまう。
メニューを受け取ってページを繰り、上海焼きそば(1000円)を注文。時間外れだが客席は7割ほど埋まっていた。ランチセットや飲茶料理に箸をつけながら、歓談に興じている。
待つ間に温かい中国茶を陶器のポットで出してくれた。湯飲茶碗の絵付けが可愛らしい。と、5分も掛からずに焼きそば、スープ、デザートが配膳された。早っ!
麺は腰のある細麺を使用。具は細切りの豚肉・海老・干し椎茸・青梗菜・玉葱・モヤシ・キャベツ。海老は小ぶりだが何粒か入っていた。
味付けは醤油系でオイスターソースも使われているのか、旨味がグワッと寄せてくる。麺は焼き目こそないがきっちり炒められ香ばしい。これは確かに旨い。期待以上にボリュームもある。
スープは青菜と玉子でさっぱり風味。デザートはライチ2個。どちらも良い口直しになった。この場所でこのクォリティが1000円なら満足度が高い。
食後にお茶をゆっくりいただいてお会計。その際、「上海でもこういう焼きそばですか?」と不躾な質問をしてみた。すると上海出身のスタッフがいるようでわざわざ厨房に確認に行ってくれた。「醤油で炒めはするがもっと太麺」との答え。やっぱりなあ。
ちなみに維新號は銀座に移転後、中華饅頭が大当たり。営業を拡大して赤坂や新宿にも店を出した。ただしそちらは高級店で自分には敷居が高い。いつか行く機会があるかなあ。
次回は揚子江飯店。上海風焼きそばの本拠地、神保町だ。
店舗情報 | TEL:050-5890-6168 住所:東京都中央区銀座8-7-22 MARUGENビル 隣 B1F 営業時間:11:15~21:30(土日祝:11:30~) 定休日:無休 → ホームページ |
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主なメニュー | 上海風焼きそば(上海炒麺) 1000円 |
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