小石屋
静岡の焼きそばと言えば富士宮があまりにも有名だが、何故か他にも独特な焼きそばが県下のそこかしこにある。県西部の掛川市の横須賀という地域にも一風変わった焼きそばが存在する。
何を隠そう、私はその掛川市の出身で、当該地域は私の実家から20kmほどの距離だ。しかし最近になるまでその焼きそばの存在を全く知らなかった。私が東京に出る頃はまだ掛川市には属しておらず、大須賀町と呼ばれた別の自治体の管轄だった。江戸時代には横須賀城の城下町として発展し、東海道沿い=今の国道一号線沿いとは若干異なる文化圏を形成してきた。また近代以降も大須賀町の市街地中心部は鉄道路線や幹線国道から離れたまま存続してきた。そのような歴史背景を持つために食文化も独自の発展を遂げたのかも知れない。
さて、その掛川市旧大須賀町は横須賀の老舗、小石屋。国道150号線と平行して東西に延びる遠州横須賀街道沿いの角にある焼きそば専門店だ。
訪れたのは八月上旬。平日だからだろうか、正午近くなのに暖簾も幟も出てなかった。客席はカウンター6席、テーブル2つ。店内は小奇麗で清潔感がある。店を一人で切り盛りしてる女性店主は、厨房から「いらっしゃいませー、ちょっと待っててね」と断って調理を続けている。先客はいないが持ち帰りの注文が入っているようだ。
カウンターに腰掛けて壁の品書きを眺める。サイズで値段が変わり、たまご入りはプラス30円、お持ち帰りはプラス10円と書かれている。お冷やをいただいて、並320円+玉子30円を注文。
「大盛にしなくて大丈夫?」
「食べたいんですけど、食べ歩きしてるんで」
「あー、食べ歩きなら小さくないとねー」
店主が厨房に戻り、大きな中華鍋で調理を再開すると、地元の高校生らしい四人グループが入ってきた。テーブルに腰掛けてサイズを相談している。
「おまえ大盛?」
「みんな並だら?」
「並でも結構あるにー」
「ジャンボ2いかっかやあ」
「マジでかいに?」
面白いやり取りだったが店主がサイズを訊くと「並四つで」との返事。おいおい、若いんだからもっと食べようぜ。
しばらくして「おまたせしましたー」と焼きそばが運ばれてきた。卓上に置かれた二つのソースを指し示し、「このソースを掛けてくださいね、どっちも同じ味だでね」と告げる。そう、この店の焼きそばはソース後掛けスタイルなのだ。
麺は中太で白いストレート麺。茹で麺だろうか、柔らかめなのにモチモチした食感だ。ところどころ付けられた焦げ目が香ばしい。さっき聞いたやり取りの通り、並なのに量は結構多い。具はキャベツと鶏肉。トッピングの目玉焼きには白コショウが振られている。後掛けソースは酸味も辛味も抑えられたマイルドな味だ。かなり多めに掛けても麺の風味が損なわれない。鶏肉は脂身の無い部位が使われていた。細切れで歯応えがあったので最初は豚肉と勘違いしてしまった。サッパリした味わいだが噛むほどに旨味が口の中に広がる。目玉焼きを崩して麺とソースに絡めるとコクが増して、これまた美味い。
食べている間にも持ち帰りの客が引っ切り無しに現れた。イートインの客も来たが、入るなり「打ち止め?」と訊いて、品切れじゃないか確認してる。実際、翌日の土曜日に通りがかったら、正午前なのに「本日終業」の札が扉に掲げられていた。うーむ、地元での人気ぶりがうかがい知れる……なんてご当地出身者が言っても説得力無いかな。
店舗情報 | TEL:0537-48-2044 住所:静岡県掛川市横須賀115-1 営業時間:11:00~13:30 (麺が無くなり次第終業) 定休日:水曜日 |
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主なメニュー | 焼そば 並320円 大 450円 特大 550円 ジャンボI 600円 ジャンボII 650円 たまご入り プラス30円 お持ち帰り プラス10円 |
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