YANGTSE(やんつぇ)
地理的にネパールと共通項の多いブータン。中国とインドに南北を挟まれ、ヒマラヤ山脈という高地が国土の大半を占める南アジアの国。当然、チョウミンを含め、食文化にも共通するものが多い。しかし中にはブータンにしかない料理もある。
東京でブータン料理というと代々木上原の「ガモテタブン」で決まりだろうが、いろいろ調べるうちに千葉県・西船橋の「YANGTSE(やんつぇ)」という店でも提供していることを知った。オープンして3年半くらいの店だが、蕎麦を使ったブータンの焼きそばがそちらにはあるとのこと。それを目当てに西船橋まで行ってみた。
3月上旬、平日の夜。19時半で仕事を終え、東西線で中野から西船橋へと向かう。この時間の遠方日帰り開拓は初めてかも知れない。西船橋に着いたのは21時近く。北口を降りて右手の飲み屋街へ。目当ての看板を見つけ2階へ上がると、中の様子がわからない謎めいた扉があった。ひるまず開けて入店。
客席はカウンター5席に、テーブルが5~6卓。先客は6人グループと2人連れがテーブルに、カウンターに1人。平日のこの時間でなかなかの繁盛具合。イケメンのマスターが忙しそうにしている。
カウンターに腰掛けて、まずはネパールのビール、ネパールアイス(750円)を注文。樹脂製の柔らかい防熱カップをボトルに被せて提供してくれた。ボトルのエチケットが見えないのがちょっと残念だが、実用的な配慮だ。お通しはスパゲティサラダ。ま、これは普通のお味。
一息ついたところで改めてメニューを確認。普通の居酒屋メニューも置いてあるが、もちろん狙いはブータン料理。見慣れない料理名がずらっと並んだページとにらめっこだ。まずは定番のあれだな。
「注文よろしいですか?」
「はい、どうぞ」
「エマダツィ(700円)をください」
「お時間掛かりますがよろしいですか?」
「ええ、いいですよ」
注文が溜まっているようなので、のんびり待つことに。ビールを飲み終えてブータンの焼酎、アラ(650円)を注文。向こうでは温めて飲むそうなので、そうしてもらった。メジャーカップできっちり測ってたが、ロックグラスに入れると見た目が少なく感じてちと寂しい。
香りはよく言えばチーズのような、ありていに言えば足の裏の匂いのような。石垣島の「白百合」という癖の強い泡盛を思い出した。飲んでみると悪くない味わいだ。胃がカーッと熱くなるが、白酒ほどの凶悪さは感じない。
そのうちにエマダツィもできあがった。エマダツィは唐辛子(ブータン語でエマ)とチーズを煮た料理だ。ブータン料理は普通の野菜と同じ感覚で唐辛子を使うため、"世界一辛い料理"とも言われている。すでにアラを飲み終えていたので、ネパールのビール、ムスタン(630円)を注文。これは飲み物がないとさすがにつらい。
使われているのは青唐辛子と赤唐辛子、玉葱とチーズ。唐辛子はブータン産を取り寄せているとか。辛いが食べられないほどではない。チーズの風味も良い。マスターによると日本人向けに手加減しているらしく、現地では唐辛子の量が全然違うとのこと。ほうほう、と食べているうちにボディブローのように効いてきた。胃が熱い。ビールが進む。
怯まずに続いてブータンプレート(1000円)を注文。「初めての方におすすめ」と書かれた盛り合わせだ。手前の右がジャガイモとチーズの煮物、ケワダツィ。左は豚肉と大根の煮物、パクシャパ。唐辛子煮込みとメニューには書かれているが、どちらも日本人好みの味で辛さもそんなでもない。奥にあるのは大根とチーズのサラダ、ホゲイサラダ。こちらはかなり山椒が効いていて、中国の四川地方と繋がっているんだなーという味わい。食べているうちに口の中がしびれてきた。
酒のお代わりはブータンのウイスキー、スペシャルクーリエ(750円)。マスターの話によるとブータンで作っているというわけではなく、ブレンダーがブレンドしてブータンの酒として輸出しているらしい。癖はないけど特徴にも乏しい優等生的なブレンデッド・ウイスキーという印象。これとは別に「1907」というブータンウイスキーにも興味をそそられたが、一杯1500円という高級酒なのでボトルの写真だけに留めておいた。日本で飲めるのはたぶんここだけらしい。
そして締めにプタ(750円)を注文。冒頭でも述べた蕎麦を使ったブータンの焼きそばだ。フライパンで何やら念入りに炒めてる。やがてパスタのように盛り付けられたお皿が運ばれて来た。
麺は蕎麦。講談社学術文庫『麺の文化史』では「プッタ(putta)」という名で紹介されている。中央ブータンの「ブムタン」地域の料理で、本来は春雨やパスタのように押し出して作るそうだ。「プッタ」という料理名も元々は麺を作る押し出し機の名称らしい。食味としては日本の蕎麦の方が明らかに上のようで、こちらの店でも日本で市販されている茹で麺の蕎麦を使っていた。
具は玉子、唐辛子。バターで炒めて、塩で味付けというシンプルな品。こちらのプタは隠し味に醤油を少々足して、トッピングに水菜をあしらっている。油脂の風味が香ばしくて後を引く美味しさだ。もろに日本人好みの味だが、アレンジは隠し味の醤油くらいでほぼ現地の味とのこと。本場の味付けもバターと塩など、ごくシンプルなんだとか。それでこれだけ美味しくなるってのが面白いなあ。
日本人でブータンに縁のある人はごく限られているため、コミュニティも狭いそうだ。冒頭で触れた代々木上原のブータン料理店・ガモテタブンとも面識があるらしい。あちらはドラマ『孤独のグルメ』で一躍有名になったが、こちらの店も東京に支店を出せるくらい流行って欲しいなあ。
さんざん飲み食いして会計は6026円。4~5000円を目途に考えてたけど完全に予算オーバーだ。でもそれだけ払う価値はあったので後悔はない。むしろ気がかりなのは翌朝のトイレだ。激辛メニューって食べるのは割と平気なんだけど、出すときの方がつらいんだよね。
店舗情報 | TEL:080-9180-4650 住所:千葉県船橋市西船4-26-2 2F 営業時間:18:00~24:00 定休日:日曜・祝日 → ホームページ |
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主なメニュー | プタ 750円 エマダツィ 700円 ブータンプレート 1000円 ネパールアイス 750円 ムスタン 630円 アラ(ブータン焼酎) 650円 スペシャルクーリエ 750円 お通し 350円 |
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