吉野
西日本のコナモノ屋の焼きそば特集もだいぶ長引いておりますが、もうしばらくお付き合いください。
三十三間堂の裏手の路地裏に吉野というお好み焼き屋がある。非常に分かりにくい場所にあるこじんまりした店なのだが、順番待ちが必要なくらい人気があって常に混んでいる。
訪れたのは9月中旬、土曜日の夜。本当にここでいいのかいな、と恐る恐る看板のある路地を奥へ進むと、左手に暖簾が現れた。頃は19時過ぎ。中は賑やかだ。客席は焼き台テーブルが5卓にカウンター席が5脚。テーブルは全て埋まり、カウンターも2人組が腰掛けていた。
「一人ですが座れます?」
「カウンターでもよろしいですか?」
「ええ、勿論」
カウンターに腰掛けて、生ビール(600円)と名物のホソ焼(900円)を注文。ホソとは牛の腸のことで、野菜と一緒に鉄板で焼いた品がホソ焼だ。この店に来たらぜひとも食べるよう、あちこちの口コミに書かれていた。
ガタイのいいお兄ちゃんが注文を受け、ビールを寄越してからホソ焼に取り掛かり始めた。お好み焼や焼きそばはおばちゃんが、それ以外の焼きをお兄ちゃんが担当のようだ。そしてホール専門のお姉ちゃんが一人いて、スタッフは以上3名。
味付けされたホソと玉ねぎをまず炒め、頃合を見て細めのモヤシを追加。さらに小手でホソを押さえるなどしてからざく切りのキャベツを投入して出来上がり。特製のタレに付けて食べるのがここのお作法らしい。
このホソ、定評のある品だけあって実に美味い。頬張ると牛ホルモン特有の脂分がタレと絡みあって口の中に広がる。プリプリのホソを噛み締め、口内の脂をビールで洗い流すのがまた堪えられない。野卑な味わいだが私にとってはまさに絶品だ。キャベツはシャキシャキ、モヤシはしっとりで野菜もそれぞれ役割をこなしている。
お兄ちゃんやおばちゃんと和やかに会話しつつ、バクバクグビグビ。ビールもホソ焼もあらかた片付いたところで、スジ玉のそば入り(850円)と赤チューハイ(450円)を追加注文した。
先日のふくいでも飲んだが、赤チューハイは赤玉ワインを使った焼酎ハイボールだ。この吉野では「甘い」「甘くない」と2種類の炭酸を選ぶことが出来る。この日注文したのは甘くない方。すっきりした飲み口で、甘いのよりも断然好みだった。
それからスジ玉のそば入り。スジ玉は勿論、スジ肉入りのお好み焼なのだが、この店は大阪風の混ぜ焼きではなく、「ベタ焼」と呼ばれる京都風のお好み焼きなのだ。ベタ焼は、広島のお好み焼きに代表される重ね焼きで、他の地方で一銭洋食・薄焼き・ちょぼ焼などと呼ばれるものと同類の品だ。今回はそれのそば入りでオーダーした。
まず麺、スジ、千切りキャベツを鉄板に乗せ、ソースで味付けしつつ軽く混ぜ炒める。その、火の通りが中途半端な焼きそばの隣に生地を薄く広げ、鰹節をパッパと振る。
先ほどの焼きそばを生地の上に移動し、天カスと紅生姜を乗せ、その上から少量の生地を垂らす。ここでひっくり返してしばらく放置。火が通ったところで隣に玉子を割り、本体を乗せてひっくり返して出来上がり。
手元のソースは甘口と辛口の2種類あり、これを好みで塗りたくる。この辛口ソースが本当に辛いのでごく少量から試すのが良い。青海苔と鰹節もトッピングして、さていただこう。
麺は中太でコシがある。京都のお好み焼屋でのスジは「カッパすじ」と呼ばれる部位で煮込まれてはいない。コリコリとかなり噛み応えがあり、噛むほどに旨味が出る。食べているうちに顎が疲れて来たが確かに美味い。生地はもっちりしていて全体を円やかに包み込んでいる。それ以外の具材は脇役に徹しているが、総じてバランスが絶妙だ。「美味い美味い」とハフハフ言いながら赤チューハイで喉奥へ流し込んでいった。
想定以上に美味しかったせいで早々に平らげてしまった。一時間弱でお会計は2800円也。この日は北海道から何度も来られているお客さんも居た。支持層の厚さが伺える。おばちゃんは既に70を超えているらしいが、そんな歳には全く見えない。末永く元気に焼き続けていただきたい。また来よう。
店舗情報 | TEL:075-551-2026 住所:京都府京都市東山区上池田町546 営業時間:11:00~21:00 定休日:月曜・火曜 |
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主なメニュー | お好み焼 肉玉、豚玉、イカ玉、スジ玉 700円 ホソ玉、油かす玉 850円 そば入り 小 850円 大 1000円 うどん入り 小 850円 大 1000円 焼きそば、焼きうどん 小 700円 大 850円 ホソ焼 900円 |
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