Kaieteur Liberty Restaurant

2019年5月14日

はい、どーも。みなさんおなじみの長文記事です。前置きもめっちゃ長いです。いつものように我慢してお付き合いください。


「西インド中華(West Indian Chinese)」という料理のジャンルを私が知ったのは、ニューヨークの下調べ中のことだった。「インド中華(Indian Chinese)」はこのブログでも取り上げ、メシコレでも紹介したし、最近はメディアでも特集が組まれるほどには知られてきた。だが「西インド中華」を知る人は、エスニック料理好きにも少ないだろう。

インド半島西部ではない西インド

「西インド中華」の「西インド」は、インド半島西部のことではない。この場合の「西インド」は、カリブ海の西インド諸島や南アメリカの沿岸部を指す。「西インド中華」はそのエリアの料理ジャンルで、別名「カリブ式中華料理(Caribbean Chinese Cuisine)」とも呼ばれる。「初っ端から、ややこし過ぎだろ」と自分でも思う。

カリブ海の植民地時代

大航海時代、イギリスはカリブ海の島々の多くを植民地として獲得した。タバコ・砂糖・コーヒーなどのプランテーションが主力産業で、当初は黒人奴隷が主な労働力だった。しかし19世紀になるとイギリス国内で奴隷制度への批判が高まり、1807年の奴隷貿易法や1833年の奴隷制度廃止法が制定される。結果として農場経営者はアフリカ大陸から奴隷を連れてくることができなくなる。

イギリス国内で奴隷制度への批判が

代わりの労働者や召使いとして西インド諸島に連れて来られたのが、インド人と中国人だ。カリブ海諸国がイギリスから独立した後も、彼らとその子孫はカリブ海に留まった。カリブで調達可能な食材・調味料で作られたインド料理や中国料理に、ジャークチキンなどで知られるジャマイカ料理の影響も受け、現地独特のスタイルが生まれた。それが「西インド中華」「カリブ式中華料理」だ。

ガイアナ(Guyana)共和国(旧英領ギアナ)

南アメリカ沿岸部、ベネズエラの東隣に位置するガイアナ共和国(Guyana/旧英領ギアナ)は、その「西インド中華」が普及している代表的な国だ。Wikipediaによるとガイアナの人口は約76万人。インド系の割合が最も多く43.5%を占めている。黒人が30%、混血が16%、先住民族が9%。中華系は0.2%と少ない。ちなみに日本人はというと、外務省の資料によれば在留邦人はたった10人。年間の来日人数も10人と、日本にほとんど縁がない。

ニューヨークの西インド中華料理店MAP

元イギリス領やイギリス連邦という繋がりだろうか、アメリカのニューヨークやカナダのトロントにはガイアナ移民が多い。この記事によると、ニューヨークの西インド系住民は市内東エリア、クイーンズ区のリッチモンド・ヒルに集中していて、リトル・ガイアナ(Little Guyana)の異名もある。西インド中華料理店も多く、今回紹介するカイエトゥール・リバティ・レストラン(Kaieteur Liberty Restaurant)もその一つだ。

というわけで、ようやく本題に入る。はあ、長い前置きだった。

ニューヨークにあるカイエトゥール・リバティ・レストラン(Kaieteur Liberty Restaurant)へは地下鉄A系統で訪問した。平日夕方の車内は有色人種が多く、白人がちらほら。アジア人は一人もいない。最寄り駅で降りて徒歩数分。19時ちょっと前に店についた。

Kaieteur Liberty Restaurant

屋号の「カイエトゥール(Kaieteur)」は、ギアナ高地にあるカイエトゥール滝(Kaieteur Falls)のこと。226mもの落差があり、滝単体では世界一なんですと。窓にはネオンサインで「Guyanese West Indian Chinese Cuisine」の文字が光っている。ガイアナ式西インド中華料理。理解しているつもりだがどうにも混乱せざるを得ないジャンルだよなあ。

いろいろ気後れしそうになるけど、えいやっと入店。店内は奥行きがあり、フロアにはテーブル多数。常連は奥のバーカウンターに集まって、ビールを飲みながらクリケットの試合を見ていた。若くて可愛い女の子が二人で接客。あ、こりゃ人気店になるわ。

Kaieteur Liberty Restaurant 前菜メニュー

さてメニュー。日本で取り上げられることの少ない料理ジャンルなので、じっくり紹介しよう。まずは前菜のページ。筆頭は中華の揚げ海老ワンタン(Shrimp Wonton)。その右隣りはジャマイカ料理のジャークチキン(Jerk Chicken)だ。2行下にはインドのタンドーリチキン(Tandoori Chicken)。その左のバッファローウィング(Buffalo Wings)はニューヨーク生まれのアメリカ料理。下の方の”Cha Chi Kai Chicken“や”Chicken in Ruff“は、西インド中華独特の料理らしい。眩暈するほど自由な品揃えで、まさにLiberty。

Kaieteur Liberty Restaurant Chow Mein メニュー

そして焼きそばだが、Lo MeinとChow Meinがある。ニューヨークでChow Meinというとクラッカーだったりほぼご飯だったりするが、基本はカタ焼きそばだ。しかしこちらは混ぜ炒めスタイル。Lo Meinもアメリカだと通常は混ぜ炒め焼きそばを指すが、この店はもしかしたら炒めずに和えただけの本来の意味の「撈麵(捞面/ローメン)」かも知れない。今回はChow Meinにジャークチキンを乗せたジャークチキン・チョウメン(Jerk Chicken Chow Mein $10.99)を注文した。

それにしても、インド中華の影響は全く見受けられないのが興味深い。「マンチュリアン(Manchurian)」や「チリチキン(Chilli Chicken)」などは見当たらず、「Hakka Noodles」や「Schezwan Noodles」「American Chop Suey」などインドならではの焼きそば類もない。このことから西インドへのインド料理・中華料理の伝来の方が、インドでインド中華が成立するより早かったのではないか。という仮説が成り立つ。似た料理ジャンルなのに、こうも異なるとは本当に面白い。

Kaieteur Liberty Restaurant West Indian メニュー

あとはWest Indian Menuのカテゴリにあった豆スープ、ダール(Daal $3.00)もお願いした。ヒンドゥ教徒が多いのにCurry Beefはあるんだな。ちなみに各種カレーはライスや薄焼きパン・ロティ(Roti)、あるいはダールプーリ(Dhal Puri・エンドウ豆入りの薄い揚げパン)と一緒に提供されるらしい。インド本国と大きな違いがあるかは不明。

GUYANA & WEST INDIAN CREAM SODA

飲み物はクリームソーダ(Cream Soda $2.00)。冷蔵庫から取り出した瓶のラベルには「TOMBOY」というブランド名と「GUYANA & WEST INDIAN CREAM SODA」の文字。ラベルの裏にはカイエテールの滝が写真が印刷され、「カイエトゥール滝と同じくらい有名(As famous as Kaieteur Falls)」という謳い文句が添えてある。うーん、同じくらい有名というか、無名というか……。味は確かにクリーミーな甘さだが、色は透明で日本のクリームソーダとも、先日飲んだDr.Brownのクリームソーダとも全く違った。面白いなあ。

そして注文した品々が運ばれてきた。食べるぞー。

Jerk Chicken Chow Mein & Daal

ジャークチキン・チョウメン(Jerk Chicken Chow Mein)は、名前の通り炒麺(Chow Mein)に、ジャマイカ料理のジャークチキン(Jerk Chicken)が乗っている。まさに西インドならではの中華料理。ガイアナ本国にあるのかは未確認だが、ニューヨークの西インド中華料理店では置いている店が複数見つかった。

Jerk Chicken Chow Mein $10.99

麺はモチモチした中太の玉子麺。Lo Meinは公式写真だと平打ち麺だが、麺を使い分けているんだな。麺と一緒に炒めてある具は人参・玉ねぎ・白菜・いんげん豆などの野菜で、具は少なく麺が主体。トッピングにジャークチキン、キャベツの千切り、キュウリのスライス、青ネギ。量がめちゃくちゃ多い。焼きそばの味付けは甘じょっぱい。中華でお馴染みのたまり醤油=ダーク・ソイソースと砂糖が主体かな。

麺はモチモチした中太の玉子麺

焼きそば自体はごくオーソドックスな中華焼きそばだ。ただ、アメリカの一般的な中華料理店だと、これはLo Meinという名前で提供されるタイプだ。それがChow Meinの名で提供されている点が実に興味深い。ジャークチキンを除けばベジタリアン向けの品で、ケチャップも一緒に出してくるあたりは、ネパール式のチョウミン(Chow Mein)を彷彿とさせる。ただ麺の太さは明らかにこちらの方が太いし、焼きそば自体の味付けも辛くはない。

ジャークチキンめちゃうま

一方、トッピングのジャークチキンは濃厚な美味さだ。西インド諸島を原産とするオールスパイスのほか、様々な香辛料・調味料・食材を使ったタレに、肉をじっくり漬け込んでから焼き上げる。それがジャマイカのジャーキングと呼ばれる調理法で、豚や羊など鶏以外の肉も使う。

こちらのジャークチキンは鶏肉にタレがしっかり滲みていて、西京漬けや粕漬けのような複雑な味わいにスパイスの刺激がプラスされ、絶妙な塩梅だ。もっと肉に厚みがあって、パリッと焼いた皮もあるのが好みだけど、その辺りは店の個性だろう。これで十分に満足。これだけ肉が多いといつもは後半ツラくなるのだが、今回は期待以上に美味しくて嬉しくなった。

Daal $3.00

そして付け合せに注文したダール(Daal)。ネパール料理のダルバート(定食)で提供されるようなサラッとしたスープを想像していたが、ドロッとしたとろみがあってダルカレーと呼びたくなる。味付けもかなりスパイシーだ。Chow Meinにも試しに少し掛けてみたが、まあ悪くはない。

ボリュームに苦戦しつつ、なんとか完食

焼きそばのボリュームに苦戦しつつも完食。超満腹でお会計は17.40ドル。20ドル札を渡し、「お釣りは取っといて」と告げて店を出た。これまで中米のグァテマラや南米のペルーボリビアで土着化した中華料理を紹介したことがあるが、西インド地域も実に個性的な進化を遂げていた。ジャークチキンと炒麺とダール。こんな組み合わせを楽しめるのは、現地かニューヨークかトロントくらいだろう。日本で食べられないのが残念だ。他の店、他のメニューも食べてみたいなー。

店舗情報住所: 12004 Liberty Ave, South Richmond Hill, NY 11419
TEL: (718)323-8748
営業時間: 11:00~24:00(金土は翌1時まで)
定休日: なし
ホームページ
主なメニューJerk Chicken Chow Mein $10.99
Daal $3.00
Cream Soda $2.00