いづみ屋食堂
さてさて今回から、独断と偏見で選んだ西日本のあちこちのコナモノ屋(専門店も少々含む)の焼きそばをご紹介します。まずは四国の高知から。
土佐湾に面する高知県香南市の赤岡は日本酒一升の飲み比べをする「どろめ祭り」で有名だ。その赤岡にいづみ屋食堂という店がある。食堂と言いながらもメニューは焼きそばと豚平焼きだけで、どちらも地元で人気だ。その焼きそばがこれまた随分と変わっているのだ。
初めて訪れたのは5月中旬の土曜日。午後5時からの夜営業だけの店なので、必然的にビールと絡めたくなる。バイクでのキャンプツーリングの途中なので、最寄りのキャンプ場にテントを張って、徒歩で訪れてみた。
路地を歩いて店に辿りつくと店頭で子供がゲームをしてた。中へ入ると鉄板台と椅子数脚。おっちゃんとおばちゃんとお姉さんの家族経営で、店頭にいたのはそのお姉さんのお子さんらしい。「いらっしゃいませ」とおばちゃんに迎えられた。
「食べていきたいんですが、大丈夫ですか?」
「ええ、どうぞ。なんにします?」
前述の通りメニューは豚平焼きと焼きそばのみでどちらも600円。その両方を注文し、「あとビールも」と付け加えた。ビールはアサヒの大瓶で500円。飲んで待ってる間も、電話注文した地元のお客さんが次々とやって来た。おっちゃんとお姉さんが忙しそうに調理していく。
豚平はお姉さんが担当らしい。ご存知だろうが、豚平焼きは豚肉が主役の粉物だ。分厚い豚肉2枚の両面をよーく焼いてから広げた生地の上に乗せ、塩コショウと化学調味料で下味を付けて、さらにしばらく焼く。黄身を崩した目玉焼きをそれと合体させて、ケチャップ・マヨネーズ・ソース・からしで味付けして出来上がり。
熱々で肉汁たっぷり、これは美味い。かなりボリュームがあるが、オーロラソースの甘味の合間にカラシがツンと効いて食べ飽きない。少食ならこれだけで充分かも知れない。
一方、焼きそばはおっちゃん担当。まずは豚肉・イカ、それと蒲鉾・薩摩揚げの賽の目切りを大量に鉄板で炒める。そこにキャベツの千切りをこれまた大量にドサッと加え、さらに炒めて麺投入。
この麺が変わっている。見た目も歯応えもゴムに似ていて、一本一本がかなり短い。製麺所から仕入れた麺を鉄板で焼いて下処理したものらしい。そして塩コショウ、化学調味料をふりかけ、なんとケチャップをドバッと垂らし、ウスターソースを加えて混ぜ炒めて出来上がり。
麺も味付けも全く独特の焼きそばだが、ケチャップの円やかな味わいと麺の歯応えがマッチして、これが妙に美味い。豚平同様、こちらもボリューム充分。どちらも人気というのも頷ける。勿論、ビールにもよく合う。
見慣れない客ということで最初はちょっと居づらい雰囲気だったが、東京から食べに来たと言ったら喜んでくださった。
「親の頃からやってて、自分がはじめてから35年」
「豚平は自分が大阪で勉強した味だけど、焼きそばはこの店で地元のお客さんと試行錯誤してできた味」
「他所にはない田舎の焼きそばだけど、どこにでも自信をもって出せる」
土佐弁で誇らしげに語るおっちゃんが頼もしい。いや本当に美味しかった。はるばる高知まで来て良かった。
ところで、ここ赤岡は江戸時代の絵師・金蔵、通称「絵金」でも知られている。その作品を保管している「絵金蔵」という施設がこの店から数十mの場所にあり、観光ついでに立ち寄ってすっかり魅了されてしまった。
作品の実物は夏祭りの晩にだけ公開されるのだが、つい先日その絵金祭りに行ってきた。詳しくは個人ブログの方に書いたが、その際にいづみ屋食堂も再訪させていただいた。店は大変な混みようで挨拶を交わす暇も無かったが、豚平焼きと焼そばの個性的な味を再び堪能できた。また機会があれば訪れたく思う。
店舗情報 | TEL:0887-54-2538 住所:高知県香南市赤岡町弁天通525 営業時間:17:00くらいから 定休日:月曜 |
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主なメニュー | 焼そば 600円 豚平焼 600円 |
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