お好み焼 かづさ

私事になるが、とある女性とご縁があって、6月15日に入籍した。それに伴って、今年のGWに世田谷区へ引っ越した。最寄り駅は京王線の千歳烏山駅だ。

ちょうど新型コロナの緊急事態宣言中だったので、その頃はほとんど外食はできず。また、転居や入籍関連のあれこれでバタバタ忙しく、このブログも放置状態になってしまった。8月8日の焼きそばの日を盛り上げるような記事も投稿できず、日々の更新を楽しみにされている方々には申し訳なく思う。

ただ、そんな状況もようやく徐々に落ち着いてきた。当ブログの更新や『焼きそばの歴史』下巻の執筆も、無理のない程度に調子を取り戻していきたい。……というわけで、新たな住まいとなった千歳烏山駅の焼きそばを紹介しよう。

千歳烏山 お好み焼 かづさ 看板

千歳烏山駅西口の南出口すぐ前にアルファビルという建物がある。1階と2階に飲食店がいくつか入っていて、引っ越し前から気になっていた。そのひとつが「お好み焼かづさ」だ。新型コロナの緊急事態宣言が解除された直後の5月26日、営業時間が20時以降もOKとなっているのを確認し、二人で入ってみた。

千歳烏山 お好み焼 かづさ 外観

カウンターに面した長椅子もあるが、客席は座敷がメイン。鉄板台が6卓ほど配されている。ホール担当の女性に促されて、奥まった座卓に着席。

お好み焼 かづさ メニュー

メニューはお好み焼きやもんじゃがメインで、裏面にはおつまみ類もある。お好み焼きは「いか天」「えび天」など、「玉」ではなく「天」表記だ。

お好み焼 かづさ メニュー

もんじゃがあることと、この「天」表記から、この店が大阪風でも広島風でもない東京スタイルのお好み焼き店であることがうかがえる。マヨネーズが別料金で30円な点にも東京の老舗っぽさを感じる。伺ったところ、烏山で創業して40年くらい経つらしい。

瓶ビール(大) 700円

とりあえず瓶ビール(大・700円)とウーロン茶(200円)をオーダー。緊急事態宣言の発令中は、飲食店でのアルコール提供は19時までだった。その時刻を過ぎても飲めることが嬉しい。

牛挽き天 800円

一品目に牛挽き天(800円)を注文。材料が入ったカップが運ばれてきた。なるほど、こちらは自分で焼くのね。食材がこぼれても良いように、カップを持った手を鉄板の上部にかざしてよく混ぜる。ラードを鉄板に引き、混ぜた生地を丸く広げてしばらく放置する。

山芋いそべ揚げ 700円

お好み焼きは焼き上がるのに時間が掛かるので、その間に他の品々を食べよう。おつまみの欄にあった山芋いそべ揚げ(700円)は、あられ菓子のような可愛い見た目だ。サクッとした軽い口当たりのあと、とろーんと香ばしい山芋がとろける。海苔と醤油の風味が良い。つまんでいる間に、お好み焼きの焼き加減を見て裏表を返す。

帆立バター 800円

続いて帆立バター(800円)。これも材料を渡され、自分で焼いた。お好み焼きの横にスペースを作り、油を引いてモヤシなどの野菜とボイル済みの帆立を広げる。塩コショウして時折ひっくり返し、全体に火が通ったら、バターを最後にちょんちょんと乗せてできあがり。シンプルだけど美味しい。帆立とバター、外れのない組み合わせだ。

ふわっとした口当たりのお好み焼き

そうこうしているうちにお好み焼きも焼き上がった。お好み焼き用のソースを塗って、かつお節と青海苔を掛けて完成。ヘラで切り分け、口を大きく開けて熱々のを頬張る。火傷しないように気を付けて、小麦粉とソースの風味、出汁や牛ひき肉の味わいを楽しむ。生地に山芋が混ぜてあるのだろう、ふわっとした口当たりが良い。

ミックス焼きそば 850円

〆はミックス焼そば(850円)だ。大きな皿に蒸し麺と野菜、豚肉・イカ・エビが盛られてきた。野菜はざく切りキャベツとモヤシ、細切りにしたニンジンとピーマンだ。これを鉄板で焼くわけなのだが、焼き方を考え始めると悩ましい。

まず麺と具は別々に焼きたい。麺は軽く焦げ目をつけるのが狙いだ。具もできれば順番を考えたい。豚肉はしっかり加熱すべきだが、イカやエビは硬くならない程度に押さえたい。人参は火の通りが悪いので時間を掛けたいが、モヤシは加熱しすぎると水分が出るから短めに。そんな感じで具材ごとの特性を考えた順序で鉄板に乗せていくのが望ましい。

焼きながら写真を撮るので忙しい

しかしそれはあくまでも理想だ。そもそも提供される段階で食材が重ねられているから、順序を変えづらいという問題がある。今回はイカ・エビをよけ、下から豚肉を引っ張り出して……とかやったけど、面倒な場合は「えいやっ」と広げても問題なかろう。「好きに焼く」からお好み焼きということで、ヨシッ!

いい塩梅に出来上がり

塩コショウ、ソースで味付けしつつ混ぜ炒め、かつお節と青海苔を振りかけてできあがり。これまでの経験上、自分で焼くと薄味に仕上がってしまうことが多かったので、今回はソース多めで味付けしてみた。そのおかげもあって、良い塩梅に仕上がった。

東京ならではの細い蒸し麺も良いものだ

大阪などで使われるモチモチの茹で麺も良いが、東京ならではの細い蒸し麺も良いものだ。そういえば焼きそばの歴史を調べている中で、焼きそば麺の製法について、『麺類百科事典』(1984,  食品出版社)という本に興味深い記述を見つけた。

生めんを蒸すことは、中華めんによる焼そば用だけではないが、実際はそれが主流になっている。ただ、この焼そばでも、地域によって製法はまちまちとなっている。東京を中心とした関東では、めん線切り出し後5分間ほど蒸し、水洗、冷却したのち水を切り一玉ずつ分割して製品化している。北関東から東北にかけては、一度蒸したものを水洗、冷却し、再度5~10分間蒸している。名古屋を中心とした中部地方では、4~5分間蒸したのち、1分間ほどゆでて水洗、冷却に回す。水切りし油をまぶし1食ずつ分割する。関西以西になると蒸すということはほとんどなくなる。九州に行くと長崎では蒸したのちに油で揚げ、「皿うどん」としてあんかけ風の用い方をしている。このように焼そばの作り方を眺めてみると、それぞれの土地の気候、風土、食習慣とからんで各種の方 法があり興味深いものがある。
『麺類百科事典』253頁(1984,  食品出版社)

東京を中心とした関東は、1度蒸した後に水洗い。北関東から東北にかけては、そこから二度蒸し。中京圏では蒸したあとに1分間ほどゆでて水洗い。関西以西ではほぼ蒸さず。長崎では蒸した後に揚げて「皿うどん」になる。こういった地域差が明文化されている資料は、とても貴重だ。東日本は蒸し麺で西日本は茹で麺が主流というのは知っていたが、中京圏はそのハイブリッドだったとは。

鉄板を囲んで自分で焼いて、ソースの焦げた香りを嗅げば自然と笑顔になる。これぞソース焼きそばといえる品を堪能した。飲み物のお代わりも重なって、この日のお会計は約6千円。次回訪問時はもんじゃも食べてみたい。

店舗情報住所: 東京都世田谷区南烏山5-32-14
主なメニューミックス焼そば 850円
豚焼そば 800円
イカ焼そば 830円
焼うどん 800円
塩焼そば 850円