いのうえ お好み焼き店

2019年4月25日

紀伊半島ツーリング3日目。和歌山県すさみ町のはまみせ・みっちゃんを出たあとは、内陸へと向かった。熊野本宮を経て奈良県に入り、十津川村を北上。谷瀬の吊り橋を渡ったり、めはり寿司を食べたり。

途中、何箇所か気温が表示されていたが、最低は天辻峠で2度だった。昨夜来の寒さでどうも風邪を引いてしまいそうだ。この日もキャンプをするつもりだったが、急遽予定を変更して宿に泊まることにした。

利用したのは大和五條、藤井館。古い町並みの一角で営まれている落ち着いた純和風の宿だ。宿泊費がお手頃で部屋も小奇麗。フロントで風邪薬をいただいたり、いろいろお世話になったので宣伝しときます。

到着してすぐ風呂へ入って冷えた身体を芯までほぐしたら、さあ夕食だ。宿の近所に何か良さげな店はないかなーっとWEB検索してみた。この宿からほんの目と鼻の先に、いのうえというお好み焼き店があり、「五條のソウルフード」とも呼ばれているそうだ。おあつらえ向きである。

五條市 いのうえ お好み焼き店

いのうえお好み焼き店を訪問したのは土曜の19時前。同店の敷地には「まことちゃん地蔵」が建立されている。楳図かずお氏が描いたギャグ漫画、あの「まことちゃん」だ。なぜここに「まことちゃん地蔵」があるのかは後述しよう。

五條の珍スポット まことちゃん地蔵

入店すると店主らしき男性がカウンター席でテレビを見ていた。

「いらっしゃいませ、お持ち帰り?」
「いえ、食べていきたいんですが」
「ほなお好きな席へどうぞ」

そう告げて厨房へと移動する。テーブルもあったが先客もいなかったし、カウンターに腰掛けた。

生ビール お通しはイノシシの煮物

何はともあれ生ビール。お通しに出てきたのは甘しょっぱく醤油で煮て解した肉だ。ご主人によると知り合いが撃ったイノシシという。いきなりジビエだ。昼はすさみ町でイノブタと思ったら、夜は五條でイノシシとは。イノブタ同様、脂身が甘くて美味しい。

いのうえお好み焼き店 メニュー

さてメニュー。左側はお好み焼き、右は焼きそばや鉄板焼きが並んでいる。そのお好み焼きだがイカ玉やブタ玉などおなじみの品々に続いて、「ナットウ」「ギョウザ」がある。さらには「オバケ」「タヌキ」?? なんだそれは?

「ナットウ」「ギョウザ」? 「オバケ」「タヌキ」??

よく見ると「オバケ」には「うどん玉」、「タヌキ」には「そば玉」とカッコ書きが付いている。実はこれ、関西ではおなじみのコナモン、モダン焼きなのだ。ただし「オバケ」「タヌキ」という呼び方は、五條でも特殊なケースで、使っているのはこの店と道を挟んだ向かい側にある力松という店の2店のみ。ごく局所的なメニュー名だったりする。

「オバケ(700円)ひとつ、お願いします」
「すんません、今日はうどんが切れてて」
「ありゃ」
「そばならあるんやけど」
「じゃ、タヌキ(700円)で」

厨房の鉄板を熱し、油を引いて調理を始めた。距離があるので具や調理順などはよく見えない。焼き上がるまで20分ほど。その間、いろいろお話をうかがった。

五十周年を祝う横断幕

テーブル席の壁に「50周年おめでとう」の横断幕が飾られている通り、店は創業して50年以上にもなる。そしてご主人の井上さんは楳図かずお氏の幼馴染。楳図氏は6歳から27歳まで五條市で育った。その期間を親しく過ごし、ベタ塗りや網掛けなど漫画を手伝ったこともあるそうだ。デビュー前後の裏話なども少し教えていただいた。まことちゃん地蔵もその縁で建立したという。

タヌキ 700円

話している間に「タヌキ」もできあがった。中華麺はパリッと焼かれ、お好み焼きの生地と重なり、2層構造になっている。広島などの重ね焼きと違って、混ぜ焼きと焼いた麺を重ねたスタイルのモダン焼きだ。

断面が美しい

話しながらだったので、具などの詳細はメモし忘れたが、キャベツと豚肉、あとは揚げ玉などだったと思う。普段、マヨネーズは掛けないのだが、訊かれてつい「お願いします」と応えてしまった。だがまあ別に嫌いなわけじゃないので問題なし。熱々の生地にパリパリの麺。食欲を刺激するソースの香りと踊る鰹節。こうして関西のモダン焼きを食べるのも、ずいぶんと久しぶりな気がする。

コテで直接いただく主義

それにしても「オバケ」「タヌキ」という名前が謎だ。大阪で油揚げを乗せた「そば」を「キツネ(うどん)」に対して「タヌキ」と呼んだり、一部の蕎麦屋で揚げ玉と油揚げの両方入れたものを「オバケ」や「ムジナ」と呼んだりする。「メニュー名はその辺りから取ったんですか?」と訊いたら、「いや、適当につけただけです」と笑って答える店主。なんだか化かされた気分だが楽しい。

天井に飾られた飛行機やヘリコプター

天井に飾られた飛行機やヘリコプターなどもご主人の作品。ラジコンや模型の業界では一目置かれている有名人らしく、機体をスクラッチで造り上げるアトリエなども見せていただいた。まことちゃん地蔵の御神体も店長さんのお手製で、バイクも乗りこなすなど、かなりすごい人物なのである。

五條を観光で訪れる人は少ないだろうけど、この辺りの吉野川流域を通りがかったら、まことちゃん地蔵へ参拝するついでに「オバケ」「タヌキ」を味わってみては? ちなみに「ギョウザ」は文字通りギョウザの入ったお好み焼きらしい。向かい側の力松もいつか訪問して食べ比べてみたいなあ。