Feira da Liberdade

2019年5月6日

ブラジル式焼きそば特集、2軒めです。

ブラジル・サンパウロを歩いてると、ふいに「Yakisoba」あるいは「Yakissoba」の文字を目にすることがある。イベントなどの露店でも定番の品。「Yakisoba」はすでにブラジルの日常に溶け込んでいるのだ。

アニャンガバウ駅前の焼きそば屋

しかし、なぜ中華風の「炒麺」が「Yakisoba」という日本名で普及したのだろう? 他の国のように「Chow Mein」という呼び名が使われないのは、なぜなのか?

Feira Gastronomica da Paulista

有力なのはサンパウロのLiberdade(リベルダーデ)地区を起源とする説だ。ブラジルを代表する日本人街として知られるLiberdade。正しい発音は「リベルダージ」だが、日系社会の間では慣習的に「リベルダーデ」と表記されてきた。現在は中国・韓国系の移民が増え、「日本人街」ではなく「東洋人街」と呼ばれるようになった。とはいえ、全体的な雰囲気は日本を意識したままだ。

週末の東洋市、Feira da Liberdade

ここリベルダーデでは毎週土日に東洋市(Feira da Liberdade)が開催され、地下鉄駅前の広場が屋台で埋まる。周辺一帯は人種に関係なくサンパウロ市民で大賑わい。「TEMPURA(天ぷら)」や「GUIOZA(餃子)」に混じって「Yakissoba」を商っている屋台もある。

Yakissobaの屋台が人気だ

看板には中国人風のイラストが描かれ、「Desde 1973」、1973年から続いてることを伝えている。この東洋市の焼きそばの屋台について、2002年5月21日付のニッケイ新聞(日系人向けの現地紙)に詳しい経緯が書かれている。すでに記事は公式サイトから削除されているが、WebArchiveに残っていたので抜粋して引用しよう。

「Desde 1973」を謳う看板

ブラジルの〃やきそば〃は中華風なのに、日本語の呼称で定着している。日系人がサンパウロ近郊のフェイラや日系団体の催しでよく販売することもあり、日本食と考える人もいる。ブラジルのやきそばの起源に迫ると、最初に中国人は見逃せない。

何禮増(ホー・トニ)さんはブラジル在住歴三十五年、中華料理にも精通している。何さんによると、やきそばが普及したきっかけは一九七五年、リベルダーデ広場に開設された東洋市(日曜市)に逆上る。中国人がフェイラでやきそばとてんぷらの販売を始めた。

中華料理は当時、非日系人の間で評判が思わしくなかった。中国人は日系、非日系を問わず客に迎え、商売を繁盛させたかったため、商品名を中国名〃炒麺(ツァオメン)〃とせず、〃やきそば〃で通した。中国人はあくまでも売ることが一番の目的で、名前にこだわらなかった。

やきそばは老若男女を問わず評判を呼び、日系人も真似て各所で売り出すようになった。水本すみ子エスペランサ婦人会名誉会長は、「やきそばは特に二、三世や非日系人が好む。今は各地の催しで、多くの人に好まれる食事を提供するため、やきそばは絶対に欠かせない」と評価する。

ニッケイ新聞 2002年5月21日/庄司智子『日本食フロンティア 食の移住史(6) やきそば 1 東洋市、普及に貢献-中国人「炒麺」の名使わず』より引用

記事の1975年と、看板の1973年では2年の開きがあるが、東洋市が始まる2年前から屋台は別の場所で営業していたのかも知れない。ともかく、その頃まで遡れるのは間違いないだろう。

メニューはシンプル

どんな焼きそばか、実際に食べてみよう。焼きそばの具は「Carne(牛肉)」「Frango(鶏肉)」「Misto(ミックス)」から選べ、サイズは「Pequeno(小/R$20)」と「Grande(大/R$28)」がある。注文したのは「Misto」「Pequeno」、ミックスの小だ。20レアルは564円なので、値段は日本の屋台と似たようなものだ。

手分け作業で盛り付けられる焼きそば

麺は野菜と炒めて作り置きされている。それを器に盛り付け、牛肉と鶏肉をトッピングする。最後に寸胴に入った煮汁だかソースだかを掛けてできあがり。サイズは小のはずなのにずっしり重い。

丸一(Maruiti)のとんかつソースを勧められる

器を渡す際に「トンカツソースを好みで掛けてね」と言ってきた。ブラジルの醤油メーカー、丸一(Maruiti)のとんかつソースだ。ブラジルでは日系移民の需要を満たすため、地元で各種調味料が作られてきた。とりわけ醤油はSakuraというブランドが普及している。そのあたりの経緯を調べると、日本人の食に対する熱意、否、もはや執念を感じる。

丸一(Maruiti)のとんかつソースを勧められる

焼きそばの麺は太麺を使用。蒸し麺ではない。テクスチャはザラッ、ヌメッとしていて、モチモチ感やプリプリ感に乏しい。水分とか捏ねとか熟成時間とか、なにか問題があってグルテンが十分に形成されてないのかな。ベースの具はキャベツ、人参、ブロッコリーなどの野菜だ。

しょっぱめの味付け、確かにとんかつソース必要かも

麺と野菜は炒めたうえに味付けされている。見た目は茶色いのでソース味かと思ったが酸味はなく、甘さやスパイスもあまり感じない。オイスターソースと醤油と塩だろうか、しょっぱめの味付けだ。とんかつソースを掛けると甘味や酸味が増す。肉は牛も鶏もたっぷり。腹がパンパンになったが何とか食べきった。確かにとんかつソースは掛けた方が良いな。

前回紹介したSukky Yakisobateriaはあんかけ焼きそばだったが、こちらはあんかけとは呼び難い。前述の通り鶏肉・牛肉がトッピングされ、煮汁だかソースだかが掛けてあるが、ベースはあくまでも混ぜ炒めた焼きそばだ。

ブラジルの焼きそばはあんかけなのか、混ぜ炒めなのか。それについてもニッケイ新聞の続きの記事で分析されている。

何(ホー)さんは「炒麺は中国の地方により違いがある。フェイラで代表的なのは広東風と福建風」と話した。
広東は味をつけたゆで麺を油の引いたフライパンで押し付けて両面焼くか、油で揚げてパリパリにする。野菜や肉を炒め、片栗粉でとろみをつけたあんかけを麺にかけて完成。

福建は麺と野菜や肉などを別々に炒めてから混ぜ合わせ、味を付ける。水分を多くして、麺に具のうま味をなじませるのが特徴。汁のない湯麺に近い。何さんは「具材と麺を同様の細さにするのがおいしさのポイント」と秘訣を語った。

フェイラや日系団体の催しでは福建風が多い。福建風の麺に広東風と同様、あんかけする新しいタイプも見られる。あんかけの場合、野菜と肉の分量が誰にでも均等になるように気を使い、麺の上へ別々にかけるフェイラもある。

ニッケイ新聞 2002年5月22日/庄司智子『日本食フロンティア 食の移住史(7) やきそば 2 いま流行? 福建風-日々新しい食に変化』より引用

福建風に混ぜ炒め、広東風に具を掛け、売れやすいよう「Yakisoba」と名前をつける。ブラジル式のYakisobaは、そのような経緯で中国系移民から始まったのだ。そして日系人もいつしかそのYakisobaを真似し始めた。次回は日本のスタイルに近いブラジルのYakisobaをレポートしよう。