日本橋よし町

今回から東京近辺にある広東料理の老舗を特集いたします。と言っても高級店は私の経済事情が許さないので、ある程度大衆的な店ばかりですけど。まずは以前も紹介した人形町大勝軒をルーツに持つこちらから。


銀座の新橋に近い場所に日本橋よし町という中華屋さんがある。創業は2010年(平成22年)だが、店主はかつて人形町にあった大勝軒総本店で長年料理長を務めた方。当時の地名は人形町ではなく日本橋芳町だったので、この屋号になったようだ。

銀座8丁目 中華 日本橋よし町

訪れたのは2月中旬、土曜日の昼前。店舗はビルの地下にある。日本蕎麦屋を思わせる渋いファサードだ。

大勝軒総本店に由来する日本橋よし町の来歴

階段の途中に店の来歴が掲示されている。冒頭で述べた内容が書かれているのだが、ここで注目したいのは大勝軒総本店の創業年が「明治38年(1905年)」とされている点。実は当時の総本店は現在も人形町で珈琲店として営業していて、そちらの現店主は「明治45年」と言っていて、ネットでもそのように紹介されることが多い。いったいどちらが正しいのだろう?

それはさておき店内へ。思ったよりも手狭で、客席はカウンター5席にテーブル3卓。先客は2組。スタッフは厨房に3人、ホールに1人いらっしゃった。この規模でスタッフが多い気もするが、ランチタイムの書き入れ時は相当に忙しいのだろう。

日本橋よし町 麺類メニュー

メニューは中華系の麺類が中心。銀座なのでこのくらいの価格は仕方あるまい。チャーシューメン・ワンタンメン・タンメン・サンマーメンなどはあるのに、ラーメン(拉麺・柳麺・中華そば)がないのが興味深い。

私が注文したのはニクヤキソバ(肉絲炒麺・1000円)の「やわらか」。ちなみにこのレポを書いていて気付いたがご飯0円を完全に見逃していた。それも一緒に注文しておけばよかった。

出されたお茶を啜りつつ待つこと10分弱で配膳。焼きそばの皿と練りカラシの小皿、スープの椀が目の前に置かれた。

肉絲炒麺(ニクヤキソバ) 1000円

麺はストレートの細麺で焼き目はついていない。餡の具は細切りの豚肉、モヤシ、長ネギ、筍。白い中に長ネギの薄っすらとした緑が映えて美しい。

シンプルだがじんわり優しい味わいの焼きそば

歯切れが良くて腰のある麺だ。餡の味付けは塩ベース。粘度はやや高目か。シンプルだがじんわり優しい味わいだ。練りカラシをチビチビと混ぜながらいただいた。

歯切れが良くて腰のある麺

付け合せのスープは透明で淡白な味わい。生姜の風味が強めで、浮いている水菜の歯ごたえが楽しい。ご飯を付け忘れたのでボリュームはちょっと物足りなかったが、歴史を感じさせる美味しさの和風中華だった。

透明で淡白な味わいのスープ

ところで気になっていた創業年について、会計の際に「つかぬことを」と不躾ながら訊いてみた。

「こちらは人形町で喫茶店になった大勝軒さんの……」
「はい、あそこが本店でうちのが最後のチーフでした」
「あそこは明治45年創業と聞いているんですが……」
「いえ、明治38年ですね」
「あ、こちらに書いてあるのが正しいんだ」
「はい(ニッコリ)」

証言のみで証拠があるわけではないのだが、店員さんの断言で自分的には明治38年が正しいという感触を得た。明治38年は日露戦争で日本が「大勝」した年でもある。また『東京・横浜百年食堂』という本では茅場町(新川)の大勝軒が「明治39年創業」と紹介されている。1年違いだが、その前後に創業したことは充分に考えられよう。

こちらは新川大勝軒の記事(『東京・横浜 百年食堂』より)

もし人形町系大勝軒の創業が明治38年だとすれば、日本のラーメンの元祖と云われる浅草・来々軒の創業年(明治43年)より5年も古いことになる。ラーメンマニアの方々にも、もっと注目されてしかるべきだと思う。興味の沸いた人はこちらを始め、人形町系のお店を訪れてくださいまし。

日本橋よし町

店舗情報TEL:03-3573-0557
住所:東京都中央区銀座8-4-21 保坂ビル B1F
営業時間:11:30~14:00 17:30~20:30
定休日:日曜・祝日
主なメニュー肉絲炒麺(ニクヤキソバ) 1000円
揚洲炒麺(五目ヤキソバ) 1300円

叉焼麺(チャーシューメン) 1100円
叉焼雲呑(チャーシューワンタン) 1100円
叉焼雲呑麺(チャーシューワンタンメン) 1300円
タン麺(野菜ソバ) 1100円
揚洲麺(五目ソバ) 1100円
酸麻麺(もやしソバ) 1100円
辨麺(うま煮ソバ) 1100円
天津麺(カニタマソバ) 1400円