藤や食堂

2014年3月21日

2011年3月11日は日本人にとって決して忘れられない日になった。地震・津波・原発事故について語るべきことはいくらでもあるだろう。当サイトとしてはまず語るべきテーマは……そう、焼きそばだ! 宮城県石巻市や福島県浪江町など、被災地には地方色豊かな焼きそばがあった。その食文化が失われる危機に今現在も直面している。

大震災の傷跡も生々しい石巻市街地を訪れたのは、地震発生からもうすぐ四ヶ月になろうとする7月初旬のことだった。荒涼とした瓦礫と砂埃の中、他地域の警察や自衛隊の車輌、復興のための大型車輌がひび割れた道路を行き来している。

石巻の駅前通りには藤や食堂という石巻焼きそばの老舗がある。5月中旬の新聞記事では、被災して営業再会の目処が立ってないと書かれていた。しかしここまで来たのだから、せめて外観だけでも確かめておこうと訪れてみたところ、なんと暖簾が掛かっていた。まさか営業再開しているとは!!

藤や食堂

ドキドキしながら暖簾を潜ると、店内は意外なほど綺麗に片付いていた。テーブルが6卓で先客無し。厨房に居るのが店主だろうか。「石巻茶色い焼きそばアカデミー」会長という肩書きを持つ方なのだが、無口で少しとっつきにくい印象だ。接客は眼鏡を掛けた可愛い娘さんが担当のようだが、あいにくどこかと電話をしてる。

とりあえずテーブルの一つに着席。「臨時のメニューにて営業させていただきます」と書かれたメニューには、焼きそばと一部商品だけが記載されている。やはり何とか営業だけは再開したというところなのだろう。

娘さんが通話の最中に隙をみてお冷やを出してくれた。すかさず「肉・玉入れ焼きそば(600円)をひとつ!」と注文。親父さんが奥でマッチを摺り、コンロに点火して中華鍋をセットして調理をし始めた。店主にはどうも話しかけづらいので、通話を終えた眼鏡っ娘に話題を振ってみた。

「いつ営業を再開されたんですか?」
「7/1です」
「ついこないだですね! この店もやはり被害が?」
「ええ、テーブルの天板の下くらいまで水が来ました」
「えーっ!? とてもそうは思えないくらい片付いてますね」
「はい、大変でした(笑)」

うーん、笑顔で答えてはいるが、近隣の建物を見ても「大変」の一言で済むような話ではなかったろう。自分も子供の頃に床上浸水を経験してはいるが、あの津波に襲われた現場の惨状など想像も及ばない。前述の記事では「長女が店の後片づけを始め」と書かれていたが、本当に大変だったことだろう……などと思いをめぐらしているうちに焼きそばが出来上がったようだ。

肉・玉入れ焼きそば 600円

麺は石巻独特の茶色い二度蒸し麺。太めで柔らかめ。量は割りとある。具はモヤシに万能ネギに豚肉。トッピングは端がカリカリに焼かれた目玉焼きと紅生姜。全体的にしっとりした作りだが、基本の味付けはあっさりした出汁ベースの薄味で、麺の風味が生かされている。物の本によると麺を炒める際に揚げ玉を乗せてラーメンスープを煮干出汁で割ったものを絡ませているそうだ。「石巻焼きそばソース」とラベルの貼られた卓上のソースを掛けるとスパイシーさが増して美味い。肉や目玉焼きとの相性も良い。

一気に食べて、ふーっと一息ついた。まさかこんなに早くこの店の焼きそばを味わえるとは。復活するにしても一年二年は当然掛かるものと思っていた。実に感慨深い。この味で元気になる地元市民も大勢いるんだろうなあ。百万言の励ましより、無口な店主の供する一皿こそ、復興の原動力になりうるのかも知れない。

藤や食堂

店舗情報TEL:0225-93-4645
住所:宮城県石巻市立町2-6-17
営業時間:11:00~20:00
定休日:不定休
主なメニュー※震災による臨時メニュー
焼きそば 400円
玉子入れ焼きそば 450円
肉入れ焼きそば 550円
肉・玉子入れ焼きそば 600円

かけそば 400円
肉そば 500円
ざるそば 450円

大盛 各150円増
ライス200円